第一部 閑話 観測者の視線

 それは、世界の外側。


 ゆらめく光の向こうで、彼女は静かに観ていた。


「……歩き始めたわね」


 結城悠。  未完成の調律者。


 剣も持たず、魔法も振るわず、ただ料理をするだけの青年。


「優しすぎるのが、あなたの欠点」


 同時に、それが最大の可能性でもある。


 影が生まれ、歪みが広がり、それでも世界は、まだ壊れてはいない。


「選ばせたのは、私だけれど」


 彼女は、そっと視線を細める。


「歩くと決めたのは、あなた自身」


 干渉はしない。導きもしない。


 ただ――見守るだけ。


 光の向こうで、焚き火の温度を思い出しながら。


「……どうか、ちゃんと美味しくしてちょうだい」


 観測者は、そう願った。

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