第一部 第3.5話 観測記録:調律という異常

 記録者:セレス・アルトネア  所属:王立魔法研究院(外部協力)


 観測対象:結城 悠(通称:ゆう)  分類不能。既存の魔法体系に該当せず。


 ―――――


 本日、森にて非常に特異な現象を確認した。


 対象は戦闘能力を持たない一般人であり、魔力総量も平均以下。にもかかわらず、彼の“料理行為”は周囲の魔力状態に直接的な影響を及ぼしている。


 特筆すべきは、強化・付与・回復といった従来の干渉ではなく、「乱れた流れを本来の状態へ戻す」という点。


 これは、魔法というより――調整、あるいは“調律”と呼ぶほうが正確だろう。


 もふ族幼体の魔力安定化は、その最も分かりやすい証左である。


 ―――――


 危険性について。


 この力は攻撃性を持たない。しかし、だからこそ危うい。


 魔力とは、本来世界を動かす根幹だ。それを“意図せず整えてしまう”存在は、環境そのものを変質させる可能性がある。


 事実、焚き火の周囲では、魔力の揺らぎが穏やかになっていた。土地が、安定し始めている。


 ――これは偶然ではない。


 ―――――


 さらに懸念すべき兆候。


 森の深部より、歪んだ魔力反応を微弱ながら感知。もふ族が警戒反応を示したことから、影のもふ族――伝承にある“濁りし同胞”の可能性が高い。


 もし彼らが、この“調律”に反応するならば――


 彼は、救済者にもなり得る。同時に、世界の均衡を揺るがす存在にもなり得る。


 ―――――


 結論。


 私は、この旅に同行する。


 観測のため。そして――この力が、破壊ではなく“癒し”へ向かうよう、見届けるために。


 以上、暫定記録とする。

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