だから俺は高校を辞めた
南北足利
第1話 成績トップはスポーツの夢を語ったらダメですか
はぁ~、疲れた。
入学式が終わって、1年1組の教室に戻った俺は机に突っ伏した。
「さあ、自己紹介を始めるぞ。出席番号1番、相田からだ」
「・・・」
「相田!起きてるか!」
担任である40歳くらいの熱血っぽい重村先生の呼び声が聞こえ、
廊下側一番前に座っている俺は急いで立ち上がった。
「は、はい」
「お前らは青春まっさかりだ。将来の夢を語れよ」
超緊張した新入生代表の挨拶を終え、精神的にへとへとだったので頭が動かない。
やっぱり、あいうえお順かよって内心でぼやいてから、口を開いた。
「えっと、相田理人あいだりひとです。大学に行って箱根駅伝で走りたいです」
先生の言うとおり夢を語ってみたら、クラスメイトたちは何だか( ゚д゚)と
なっていた。
解せぬ!
「・・・高校での夢を語れよ」
「成績トップなんだから、スポーツの夢語るなよ」
「スポーツクラスに行け!」
周辺から小声だが、非難の声が聞こえた。
夢を語ったらダメだったらしい。
失敗だ!空気を読めなかった!
「じゃあ、陸上部に入るのね!相田くんの出身はどこなの?」
隣の席のポニーテールの可愛い女子が快活に質問してくれた。
ありがとう!お蔭で空気が和んだよ!
「東京の府中北中だよ」
「東京!凄い、都会っ子だ!でも、なんでこの長野へ?」
「ああ、年末に母さんが亡くなって、父親も死んじゃっているから
祖父ちゃん家で暮らすことになったんだ」
「「「「・・・」」」
アカン!ただでさえ冷えている空気を極寒にしてしまった!
でも、俺のせいじゃないよ!
「・・・次だ、井石」
「ちっ!」
俺の後ろの席の井石くんが舌打ちして立ち上がった。
「井石光弘です。〇〇中出身で、軽音楽部に入るつもり」
「はい次」
そんな無難な自己紹介でいいのかよ!夢を語らせろよ!
・・・この私立科野学院高校はスポーツが盛んな学校で、
いくつものクラブが全国大会に出場している。
1学年8クラスあって、半分がスポーツクラスだが、
我が1組は唯一の特進クラスである。
ちなみに、特進クラスの現役生の進路は、トップがMARCHで、
上位陣が日東駒専。この学校の特進クラスの微妙さよ。
年末に母親が亡くなって、両親ともいなくなった俺は、
長野市の母方の祖父母の家に引き取られ、
急遽、長野市で高校受験をすることになった。
市内一の進学校である県立高校にも合格したんだけど、学費無料だけでなく、
返済不要の奨学金をもらえることになったから、この高校を選んだんだ。
この高校まで自転車で20分ほどと、通学が楽なのも選んだ理由の一つ。
クラスメイトたちの自己紹介が淡々と進んでいく。
さっき、俺に声をかけてくれた隣の席の女子がポニーテールをピョコンと揺らしながら立ち上がった。
背は女子として普通、真っ黒に日焼けしているその顔は愛嬌があって笑顔がまぶしい。
「兼平日葵(かねひらひまり)です!陸上部に入るつもりです!」
ハキハキと自己紹介を終えた兼平さんは着席した。
そして、こちらをチラリとみて、視線が合うとニッコリと微笑んでくれた。
おお、可愛い!
陸上部仲間として認定してくれたようだ。幸先、いいな!
その後も自己紹介が淡々と進んでいく。
みんな、名前、出身中学、入る予定のクラブを言って終わりみたい。
みんな、夢を語れよ!先生、夢を語らせろよ!
最後に、背は高いがひょろりとした男子が立ち上がった。
丸刈りで、真っ黒に日焼けしていて、笑顔が爽やかなイケメンだ。
「俺の名前は鷲津大和、夢は甲子園で優勝することだ!」
「「「「おおおっ!!!」」」」
いた!夢を語った!
俺の夢よりデカい!?
みんなが鷲津をヒーローみたいに見つめている!
っていうか、俺が夢を語ったときとは真逆の反応じゃないか!
理不尽だっ!
いくら高校野球が部活の花形といってもそれはないだろ!
自己紹介が終わると先生から明日からの予定の説明があって、
今日の行事は終了した。
「相田くん、ごめんね。あんなこと尋ねちゃって・・・」
隣の席の兼平さんがしゅんとして、ペコリと頭を下げた。
「気にしないで。もう立ち直っているから、大丈夫だよ。
それより、この学校って、他府県から来る人はいるの?」
兼平さんのよく日焼けした顔から真っ白な歯がこぼれた。
「ありがと。スポーツクラスは多いみたいだけどね。
箱根駅伝に出たいなんて堂々と夢を語るから、もしかして全国高校駅伝へ
男子を連れて行ってくれる凄い人なの?」
この県内には、凄い留学生がいる超強豪の佐久長久高校があって、
全国大会出場なんてそこ以外、お呼びではない。
ちなみに佐久長久高校は、去年の全国高校駅伝優勝校でもある。
「勘弁してください!俺、実績なんて全然ない雑魚だから。
新入生代表挨拶で疲れ切っていて、夢を語れって、
つい先生の言うことを真に受けちゃったんだよ・・・」
「でも、夢を語った方がカッコイイよ。出席番号1番だから、しょうがないよ」
「相田って名字のせいで1番以外、なったことがないよ」
「ふふっ!相田クンのお蔭で自己紹介のこと、考えることが出来たよ!
でもさ、勉強が1番ってホントに凄いね。凄いなぁ!羨ましいよ・・・」
「1番はまあ、運が良かったと思うよ」
兼平さんの表情はシュンとしたものから、楽しそうなもの、
そして、羨ましそうなものと目まぐるしく変わっていった。可愛いなぁ。
「相田クンも陸上部に入るんだよね!」
「うん、そのつもりだけど、兼平さんもだよね?」
「うん!ボクも長距離なんだよ、よろしくね!」
ボクっ娘だった!
なお、この学校の駅伝チーム、男子は走ったことのない都大路を
女子は毎年のように走っている。ちょっと、羨ましい。
「やっぱり都大路を走りたいの?」
「モチロンだよ!」
「でもこの進学クラスなんだね?」
「親が勉強はしておけってうるさいんだよ・・・
ボクはスポーツクラスに行きたかったんだけど・・・
数学苦手なのにどうしよう・・・」
兼平さんはしょぼ~んとしてしまった。
表情がクルクルと変わってほんとに可愛らしい。
「日葵、帰ろう~」
「うん!じゃあ、相田くん、また明日!」
友達が迎えに来た兼平さんは小さく手を振って軽やかに教室を出て行った。
なんだか、楽しい高校生活が始まる予感がした。
次の更新予定
だから俺は高校を辞めた 南北足利 @nanbokuashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。だから俺は高校を辞めたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます