仮題
なお六
すすり泣くしゃれこうべ
またあの泣き声がしてきた。
いっとくけど俺はびびってなんかないし、まず幽霊なんか信じていない。
まあ・・・いないと思っている。“あれ”が一体何なのかは全くわかんねえけどよ。
・・・・そうだな・・・もし、もしも仮にいるとしたら、まず間違いなく俺のことを恨んでるだろだ。伯父のことを恨んでいる様に。だから俺に対してああ泣きわめいてる。
思えば、なんで久しぶりの里帰りの晩飯の時に「どうやったらバレずに人を殺せるか」なんて話をしだしちまったのか。責任を感じちゃうよ。勘違いすんなよ?別にあの人にさっさと死んでほしいなんて思ってねえ、むしろ伯父と仲直りして夫婦共々末永く幸せに暮らしてほしかったと思ってたよ。俺があんないらんこと言わなけりゃあんなこと起こらなかったんじゃねえかなって思う。
伯父の奥さん、みきさんっていい人だったんだぜ?優しくって、上品な感じがするし、若い時はこの辺りじゃ人気者だったんだってよ。一度みきさんの若い時の写真見たけど、白黒の昔の写真でもすごい美人ってわかるよ。お前くらいのやつに分かりやすくいうと・・・そうだな、最近ドラマで有名な水野美紀みたいな感じだったよ。
そんなみきさんでも、一回もの凄い悲鳴をあげたことがある。伯父とみきさんの間に一人息子がいたんだけどさ、そいつが門扉から飛び出てった時に横から走ってきたスクーターと危うくぶつかりそうになった時があってさ、そん時のみきさん、見たことない形相で聞いたことない金切声をあげたんだよ。・・・そう、まさにその金切り声と同じなんだ。あの時と同じ声が聞こえてくるんだ。
あの里帰りの時、俺は中学3年だった。親に連れられてここまで里帰りしたんだけど、伯父夫婦の仲があそこまで悪くなってたなんてしらなかったよ。もっとも以前に里帰りしたとき、伯父がみきさんに対してあたりが強かったり、逆にみきさんも伯父をさんの顔を睨むような様子をみせたりと、と何となく違和感は子供ながらにあった。三十年以上は前になるな・・・そん時は八月、そう丁度今くらいの時期だ。夜の8時くらいだった・・・ん?雨?あ、本当だ。・・・嫌だな時期だけじゃなくて天気までもあの時と一緒じゃねえかよ。
蒸し暑いわ、長続きの雨のせいで仕事が進まねえわで伯父の機嫌が悪かったんだよ。今みたいにクーラーなんてなかったし。湿気のせいか料理の味があまり上手くなかったっていうのもあったんだろうな。みきさん委縮しちゃってさ、「すみません、ビールをお出しします」とか「おつまみ出しますね」とか謝ってなんとかしようとすんだけど、伯父はなかなか機嫌がよくならない。で、とうとうキレちまってよ、こんなことを俺に向かってしゃべったんだ。「な!おばさんは俺を毒殺しようとしてるんだよ」。みきさん、すげえ暗い表情をしてたな。従兄はもちろん、親父もお袋もそん時の重たい空気にやられてどうしたらいいかわかんないって感じだった。俺はガキながらに面白おかしいことを言って場の空気を明るくしてやろうと思ってな、みきさんはそんなことしない。大体毒殺なんて今時すぐバレるしなって。んで新聞に載ってた家に火を放つ強盗殺人だの、鈍器でアタマをぶん殴って、その後階段から放り投げて転落死に見せかけようとした殺人事件だのを引き合い出して、世の中にはもうちょっと頭のいい殺しの方法がたくさんあるって、それらを大袈裟に話しちまった。
・・・いやあれはウシガエルの鳴き声だよ。おれが行ってた泣き声はあんな低くない。ここらへんほとんど田んぼだろ?今くらいの季節だと何匹ものカエルが夜通し
鳴くんだよ。もっとも今年は今までにくらべると静かな気もするけどな。
・・・んで、それから埼玉に帰ってしばらくした時あとみきさんが死んじゃったって聞いたんだ。八月の十九日だった。いまでもその日付は覚えているよ。伯父さん曰く、明け方に目が覚めて、一階へ降りようって時にみきさんが階段の下で倒れてんの見たんだって。警察で検死やったところ右側頭部に打撲痕があって、そこが階段のすぐ下の床に接してたらしく、階段から足を滑らせて落っこちた時に頭を床におもいきりぶつけてそれが原因なんじゃないかということになった。家に賊が入ったような様子もないし。死体が見つかった時間帯も、みきさんがいつも朝食を作るために起きて下にいく時間と大体おなじたったらしい。家族で葬式に行った時、伯父さんの呆然とした表情は今でも覚えてる。んでそれ以降も年末とかお盆には家族で里帰りしてたんだけど、日に日にやつれていっているのが目に見えてわかったよ。仕事の方は・・・あそうそう伯父さん大工だったんだけど、それはしっかりしてたみたい。で、そんな時にさっき話した伯父さんの一人息子、つまり従兄が死んじまったんだ。なんでも学校で階段から落っこちて打ちどころが悪かったんだと。
嫁さんに次いで息子まで死んじまったんだぜ。しかも同じ死に方だぜ。偶然にしちゃちょっとなあ。さすがに伯父さんの様子はどんどん悪くなってった。飯もろくに喉を通らない状態だったんじゃないか?俺や親父が話しかけても返事は曖昧でそっけないし、目のくまもずいぶんと深くなってた。
・・・で、こっから俺の考えなんだけどな、誰にも言わないままにしてたんだけど、お前だけには言うわ。
この家に入る時、土間あっただろ。あそこの棚に伯父さんは大工仕事のために木槌をよく置いてたんだよ。古い良い方で掛矢っていうらしいんだけど。伯父さんもともと自分の仕事道具に関しては手入を欠かさないくらい大切にするほうだけど、その木槌はなんか爺ちゃんから譲り受けたとものとかで、特に大切にしてたんだ。で、葬式の時に土間を通ったら、それが柄のぶぶんがバキバキにへし折られて、乱雑に黒いゴミ袋にくるまれて土間の縁の下に放り込まれているのを見ちゃったんだ。それ見た時なんかものすごくイヤな予感したんだよ。なんで、こんな時にこの木槌がこんな状態になって置いてあんだ?って思った。
その伯父さんも今はいない。この家の人らって誰もいなくなっちゃったんだよ。
ただな、伯父さんが死んだ時、ちょっと面倒なことが起こった。
伯父さんは家の庭の隅っこで倒れてたんだと。検死の結果、もしくは動物の歯による死亡と決定された。担当の警察の調べで、庭に侵入した大きな野良犬が押し倒して喉に嚙みついたということらしい。伯父さんが死んだ日、どういう経緯で庭の隅っこにいたのかはわからない。ほら、こっから庭見えるだろ?向こうの生垣の隅っこな。あの古い箪笥とか物置とかガラクタ置いてるとこ。あそこは家のいらなくなって処分にこまったモノを伯父さんがまとめて置いておく場所だったんだけど、そこに腹ばいになって倒れてたらしい。伯父さんが死んで何年経った後もその時の様子を想像しちゃうよ。薄目を開いて口も半開き、喉に赤黒い噛み跡にある死体・・・伯父さん死ぬ前に何を見たんだろうな。誰に殺されちまったんだ?って考えた。三回忌に叔父さんの死んだ場所に行って考えてたんだ。
その時倒れた伯父さんの視線の先を思い浮かべた。雨風に晒されてボロボロになった赤茶色の木製の三段の棚・・・・。
そのうち捨てられた棚にさ、妙なものが置いてあるのを見つけたんだ。
ボロボロの箱が入ってた。高さ、幅が大体30㎝くらいで木でできてるやつだった。相当年月が経っているし雨風に晒されてたからか相当傷んでたな。
蓋もしてあったんだけど、なんか上から五寸釘で強く打ってあって開けられない。
死んだ伯父さんの視線の先にそれがあったんだ。初めて見た時はただの箱だと思ったんだが、なんかこれが妙に気になってな。もってみたらずっしり重かった。
実は後々になってわかったんだがな。みきさんの火葬を担当した火葬場の職員から大分後になって聞いたんだ。火葬の時は伯父さんとその職員の二人だけだったらしいんだが、みきさんの遺体、焼いた後、どういうわけか頭骨だけほとんど焼けてなかったらしい。表面は多少日々や焦げがあったらしいが、頭蓋骨はほぼそのまま残ってたらしい。職員はもちろん伯父さんも仰天したらしくってな。そりゃそうだろ、火葬場って800度以上の炎で焼くんだぜ?人間の骨なんて灰になっちゃうよ。それがどうして頭蓋骨だけ残ってんのか?
もちろんみきさんの頭蓋骨も謎だけど、伯父さんの行動もおかしかった。職員に対してこの骨くれって言いだしたらしい。流石に職員さんもそれはダメだって言ったらしいんだけど、伯父さん血相変えて迫ったらしくて根負けしたんだ。
なんで伯父さんそこまでみきさんの燃えない頭骨に拘った?
・・・・こんなこと認めたくないけど、やっぱ伯父さん、みきさんを殺っちゃったんだよ。なんでこんなことを急に話したのかって?
伯父さんが死んだ時の視線にあった見慣れないデカい木箱、おられてた木槌、燃えなかった頭蓋骨・・・。そもそも伯父さんの死に方なんて変じゃねえか。
その木箱にみきさんが居て、それが伯父さんをかみ殺した・・・。
いや、まさかそんなことがあるとは思えない。いやもっかい言うけどおれは幽霊なんか信じない。いるにしろいないにしろ人間を殺す力なんてあるわけねえよ。
え、その箱を見せろって?これだよ。じゃあ開けるぞ・・・。
上咲郡の民家で男性死亡、のどもとに深い裂傷 殺人で捜査本部設置
兵庫県上咲郡の民家で8月20日、住人で建築業の佐藤健司さん(51)が血を流して倒れているのが見つかり、病院で死亡が確認された。喉をしたような傷があり、兵庫県警は2日、殺人事件と断定し、捜査本部を立ち上げた。
県警によると、8月20日午前8時15分ごろ、里帰りして宿泊していた甥が、自宅の居間で倒れている佐藤さんを見つけ、119番通報した。市内の病院に搬送され、約1時間後に死亡が確認された。県警は司法解剖して詳しい死因を調べている。
佐藤さんは1人暮らし。同日午後10時50分ごろまで居間で話した後、甥は寝たという。
居間には大量の血痕があり、甥が二階で就寝中に、佐藤健司さんが自宅で襲われたとみている。
仮題 なお六 @dontcareless
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