ウォーター

君は、再び僕の前に現れてくれた。

初めて会った時とは違い、君の目は最初から水だった。


───揺らしたい。


限られた時間の中で、どうしても君の水面を揺らしたかった。

けれど、次の瞬間、君の目はまた霧に変わる。


僕の言葉は、銃弾の形をして霧の中に消えていった。

当たる感触はない。音もない。


なぜなんだ。

なぜ今回も、揺らされるのは僕だけなんだ。


なぜ君は、揺れてくれない。

悔しかった。


遊ばれているのは、いつも僕だけだ。

フェアじゃない。


君と親しくなれば、

あの白湯のような目を、僕にも向けてくれるのだろうか。


そこへ辿り着くには、どうすればいい。


氷でもいい。

冷たくてもいい。


僕は何も隠さないから、

どうか僕を見てほしい。


ただ――

君の目に、映りたい。



二度と、君が僕の前に現れることはなかった。

街の中にも、あの目を持つ君はいない。


喪失感だけが残った。


待っても、君は来ない。

探しても、どこにもいない。


僕は、どうすればよかったのだろう。


それでも、分かっている。

君の目は、確かに僕を捉えた。


あの一瞬、

氷でも、水でも、霧でもなく、

君は僕を見た。


だから、もう逃げられない。


君はいないのに、

君の目だけが、僕の中に残り続けている。





───終わり。

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ウォーター 余白 @YOHAKUSAN

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