スキル【リサイクルショップ】で捨てられた悪役令嬢(英雄)や神器を仕入れて修理したら、いつの間にか最強国家になってました 〜捨てられ貴族の楽しい領地改革〜

茨木野

第1話 「ゴミ拾い」スキルで実家を追放されましたが、わたしにとってはご褒美です


 王都にあるサイハーデン伯爵家の屋敷で、ぼく――【リオン・サイハーデン】の運命が決まろうとしていた。


「……リ、リオン様のスキルは……【リサイクルショップ】、です」


 教会から招かれた老神官が、困惑しきった声でそう告げた。

 その瞬間、豪華なシャンデリアが輝く広間が、凍りついたような沈黙に包まれる。


 この国には生まれた者が必ず受けなければならない「儀式」がある。

 8歳を迎えた日に行われる、【洗礼の儀】だ。

 この世界に生まれ落ちた人間は誰しも、創造の神により、固有のスキルを与えられる。


 剣術スキルを与えられれば、一夜にして剣の達人となる。

 魔法スキルなら、魔法を自在に操れるようになる。


 スキルは一度与えられると一生変えられない。それゆえに、なんのスキルを授かるかが、今後の進路を決定づけるといえた。


「……なんだそれは? リサイクル、だと?」


 玉座のような椅子に沈み込んでいた父、【クヅチチ・サイハーデン】伯爵が低い声で唸る。

 無理もない。この世界に、リサイクルショップなんて言葉は存在しない。

 だが、前世の記憶を持つ「転生者」であるぼくには、その意味が痛いほど分かってしまった。


(リサイクルショップ……不用品買取屋さんってこと? 剣と魔法の世界で?)


 神官が冷や汗を拭いながら、水晶に浮かんだ詳細を読み上げる。


「ええと、効果は……『ゴミを拾い、あきんどのように売り買いする能力』……のようです」


 その言葉が引き金だった。

 クヅチチ父様の顔が、湯気を上げるほどの怒りで真っ赤に染まる。


「ゴミ拾いだとぉぉっ!?」


 父様の怒声が広間の空気をビリビリと震わせた。

 我がサイハーデン家は、代々「剣」と「魔法」で国に尽くしてきた武門の名門だ。一族からは騎士団長や宮廷魔導師を多数輩出している。

 そんな名家に、商人でさえ下等とされるこの世界で、「ゴミ拾い」などという訳の分からないスキル持ちが生まれるなど、前代未聞の恥さらしだった。


「ぎゃはははは! 聞いたか兄貴! ゴミ拾いだってよ!」


「傑作だなリオン! 幼い頃は『神童』だの『天才』だのともてはやされていたが、化けの皮が剥がれたな!」


 後ろで控えていた双子の兄様たち……【ゴッカニー】と【ミスニー】が、腹を抱えて品のない笑い声を上げた。

 ぼくは幼少期、前世の知識を使って少し大人びた発言をしていたせいで、周囲から勝手に期待されていたのだ。

 ゴッカニー兄様とミスニー兄様はそれが面白くなかったらしく、ぼくの転落を見て溜飲を下げている。


(やれやれ……。神童扱いも面倒だったけど、こっちはこっちで騒がしいなぁ)


 ぼくは内心で大きなため息をついた。

 元々、ぼくは争いごとや面倒な出世競争が大嫌いだ。

 前世でも、休日にふらりとリサイクルショップを巡り、ジャンク品を購入、時に修理してはニヤニヤするような、地味で平穏な生活を愛していた。

 だから、この堅苦しい実家の空気には、ずっと息が詰まる思いだったのだ。


「リオン! この恥さらしめ。貴様のような『ゴミ拾い』を置いておく場所など、この屋敷にはない!」


 クヅチチ父様はぼくを汚物を見るような目で見下ろし、冷酷に告げた。


「リオン、貴様を本日付けで廃嫡とする! 今日中に荷物をまとめ、辺境にある我が都市『デッドエンド』へ向かえ」


「デッドエンド……あの、二つの魔境と接する不毛の地ですか?」


 この国の東の果てにある廃棄都市、デッドエンド。

 そこは、荒れ狂う『死滅海』と、塩害によって真っ白に染まる『白骨樹海』に挟まれた、最果ての地だ。


「そうだ。あそこは我が領地の『ゴミ捨て場』のような場所だ。貴様のスキルにはお似合いだろう?」


 ゴッカニー、ミスニー兄様たちが「ざまぁねえな!」と囃し立てる。

 要するに、厄介払いだ。8歳の子供に、死ぬまで辺境のゴミの中で這いつくばってろという宣告。

 普通の子供なら、絶望して泣き崩れる場面だろう。


 でも、ぼくはこみ上げる笑いを必死に噛み殺していた。


(やった……! やったぁぁ! 面倒な貴族の義務から解放されるじゃあないっ。それに……ぼくのもらったスキル……結構良い感じだよ?)


 ゴミを拾って、直して、活用する。

 それはまさに、ぼくが前世で愛してやまなかった趣味そのものだ。

 しかも、追放先の「デッドエンド」と言えば、荒海にのまれた船の残骸や、魔物の死体が転がる不毛の大地。

 つまり、ぼくにとっては『宝の山』だ。


「承知いたしました。お父様、兄様たちも、今までお世話になりました」


 ぼくは殊勝な態度でペコリと一礼し、心の中でガッツポーズを決めた。

 実家という名の檻から脱出成功。

 ここからは、誰にも邪魔されない、ぼくの楽しいリサイクル・ライフの始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る