第1部 村で始まる“予定外”スローライフ

第1話 社畜、5歳児に転生する

目が覚めた瞬間、俺は悟った。


――あ、これ死んだな。


なぜなら、目の前に広がっていたのは、

見覚えのない木の天井と、やけにふかふかした布団。

そして何より、体が……軽い。軽すぎる。


「ん……?」


声がやけに高い。

いや、これは高いというか……幼い。


(まさか……子供になってる?)


恐る恐る手を上げると、そこには小さなぷにぷにの手。

指が短い。爪も小さい。

どう見ても、5歳児くらいの手だ。


「ノア、起きたの?」


振り向くと、見知らぬ少年が立っていた。

茶色の髪に、優しげな目。年齢は……8歳くらいか?


「……誰?」


「誰って、兄ちゃんだよ。レイだよ?」


兄ちゃん?

俺に兄なんていたか?

いや、前世の話じゃない。今世の話だ。


(……転生したってことか?)


ブラック企業で毎日終電、休日出勤、上司の理不尽。

最後の記憶は、深夜のオフィスで倒れた瞬間だった。


(ああ……過労死か。やっぱりな)


妙に納得してしまう自分が悲しい。


「ノア、お腹すいたー!」


今度は小さな影が飛びついてきた。

3歳くらいの子供。金髪で、目がくりくりしている。


「フィン、ノアに飛びつくなって言っただろ!」


「だってノア好きー!」


(……弟までいるのか)


どうやら俺は、

**ノアという名前の5歳児として転生したらしい。**


レイ(兄)とフィン(弟)がいる三兄弟の真ん中。

なんだこの温かい家庭環境。

前世の俺が泣いて喜ぶやつだ。


「ノア、今日も一緒に遊ぼうね!」


フィンがぎゅーっと抱きついてくる。

可愛い。

可愛いけど、体が小さいから押し倒されそうだ。


「フィン、ノアが困ってるだろ!」


レイがフィンを引きはがす。

兄としての責任感が強いタイプらしい。


(……いい兄弟だな)


前世では、家族と疎遠になっていた俺には眩しすぎる光景だ。


「ノア、朝ごはんできてるよー!」


台所から優しい声が聞こえる。

母親だろうか。

声だけで癒される。


「ほら、行くぞノア」


レイに手を引かれ、俺は立ち上がる。


(……よし。今度こそ、のんびり生きよう)


そう心に決めた瞬間だった。


「ノア、今日の家畜小屋の掃除、お願いしてもいい?」


母ミリアが微笑んで言った。


「えっ、5歳児に任せる仕事じゃなくない?」


思わずツッコんでしまった。


「ノアならできるでしょ? いつも丁寧だし、早いし」


(……社畜スキルがバレてる!?)


前世の癖で、どうやら俺は

**“無意識に効率よく動く5歳児”**

として認識されているらしい。


「ノア、昨日の薪割りもすごかったよな! 大人より早かった!」


レイが褒めてくる。


(いや、それ褒められると逆にプレッシャーなんだが)


「ノア、今日もがんばれー!」


フィンが無邪気に応援してくる。


(……あれ? 俺、また働かされる流れじゃない?)


転生しても社畜体質は抜けないのか。

いや、抜けないどころか、

**異世界では“有能すぎる5歳児”として扱われている。**


(スローライフ……どこいった?)


俺は心の中でそっと涙を流した。


だが、家族の笑顔を見て、

少しだけ悪くないと思ってしまう自分もいた。


――こうして、俺の“予定外”の異世界生活が始まった。

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2025年12月28日 15:00
2025年12月29日 15:00
2025年12月30日 15:00

社畜だった俺、異世界で子供に転生したら大人たちが勝手に崇めてくる件 aiko3 @aiko3

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