死に戻り転生陰陽師~鬼畜ゲーに転生したので死に戻り能力を駆使してハッピーエンドを作りたいと思います!~

リヒト

山の

 夜の名残がまだ谷に沈んでいるころ、朝は静かに山へ忍び寄ってきた。

 木々の間をすり抜ける陽光は、薄くたなびく霧を淡く照らし、空気そのものがほのかに輝いているようだった。


「そっち行ったわよ」


「承知」


 鬱蒼と生い茂る草葉の擦れる音が木霊する。

 

「ブモォォォォオオオオオオオオオオオオッ!」


 霧を払う大きな咆哮が一つ響くと共に衝撃音が一つ。一本の木が倒され、巨大な影が陽光に照らされる。

 それはイノシシの姿を借りた妖だった。

 岩のように盛り上がった肩と太い胴は獣そのものだが、その動きには不自然な静けさがあった。

 濡れた毛並みは夜の闇を含んだように鈍く光り、二本の牙は月白色に反り返って、笑みとも威嚇ともつかぬ気配を漂わせている。


「よっと」


 木を一つ倒し、なおも進むとするイノシシの前に躍り出た僕はその突進を片手で強引に止める。


「グルルルル」


 突進を止められたイノシシの妖は低く唸り声をあげ、前に立つ僕を睨みつける。

 小さく光る眼は人の理を測るかのように細められる。その瞳から感じるのは確かな知性だ。山に古くから根を下ろすものだけが持つ重みと、理を外れた知性が、その巨体の内側で静かに脈打っていた。


「言葉を発することさえも出来なくなったか……古き山の神。猪神が」


 だが、言葉を発することもない。

 人間の文明の進歩。

 その影響。切り開かれ、失われていく人の信仰と畏れ。自然の現象の影響を受けているのだろう。イノシシの姿を借りた自然の神たる猪神はその神格のほとんどを喪失し、弱体に弱体を重ねている様子だった。

 

「ブモォォォォオオオオオオオオオ!」


 僕の侮り。

 それを感じたのだろう。猪神は途端にいきり立ち、その頭を振るい、抑えていた僕の片手を弾き飛ばす。


「とはいえ、凶妖ほどはあるかっ!」


 本気で頭を取り押さえていたつもりだったんだけど……っ!?

 頭を振り上げていた猪神は今度、頭を振り下ろし、その巨大な牙を僕に向かって振り下ろす。

 それを横に回避した僕はその腹に向かって蹴りを一つ。


「ぶもぉっ!?」

 

 蹴りを受けた猪神の体が僅かに浮き上がるも衝撃は僅か。分厚い脂肪によって蹴りの威力は減衰され、猪神は健在。後ろ脚はしっかりと踏ん張っていた。


「ぶもっ!」


 その、後ろ足でその巨体を跳躍させ、こちらへとぶつかってくる。


「流石に……弱くはないね」


 その突進を諸に食らった僕は後方へと吹き飛ばれる。

 だが、僕も地面に足はつけたままだ。少しばかり後退させられただけで押しとどめた僕はその場で拳を力強く握る。


「ブモォォォォオオオオオオオオオッ!」


「ふんっ!」


 僕がその場で拳を振るえば、此方に向かって突進していた猪神と衝突した。

 空気を震わせる衝突音が響き、草葉を揺らす。


「ォォ!?」


「ぐっ」


 己の拳と猪神の突進がぶつかりあった結果は痛み分け。

 猪神の突進は僕の腕の骨を一つ折り、僕の拳は猪神の頭を陥没させて頭蓋骨にヒビを入れた。


「ォ、オオっ」


 脳にも、ダメージが入ってくれたのだろう。

 猪神は己の前でたたら足を踏み、再び突進の為に地面を蹴ることはなかった。

 そんな猪神に向かって僕は追撃を入れるのではなく、逆に後退する。


「退きなさい」


 そして、遅い警告の声が新しく響くと共に、陽光をも覆い隠す灼熱が空より降り注ぐ。

 灼熱が降り立つは猪神の頭上。足を止めていた猪神の毛を、肉を、灼熱が焼いていく。


「荒れ狂いなさい」


「ブモォォォォオオオオオオオオオッ!」


 草葉も、木も焼いて。

 火柱が猪神を覆いつくす。


「……終わったか」


 一分と少し。

 灼熱が消えれば、後に残るのは黒く焼けた猪神であった。


「足止めご苦労よ」


 呪力反応に気づき、後方へと下がっていなければ僕にも当たっていたであろう灼熱を放った人影が猪神の活動停止の確認の後、木の上から降りてくる。


「ありがとうございます」

 

 その人影の主。

 あまりにも遅すぎる警告の声を告げたその少女に対し、僕は文句を言うでもなくただ一度、小さく頭を下げる。


「こいつの後処理をするわ。護衛をしてなさい」


「承知いたしました」


 黒く焼けた猪神の身からは辺りを汚染させる禍々しい呪力が漏れ出すと共に、これまた定命の種にとっては毒となる神格の残滓が漏れ出していた。

 それを鎮める為、少女が一つの札を取り出す。


「鎮まり給え、鎮まり給え───」


 帳が降ろされる。

 腰にまで伸びる少女の黒い髪が僅かに光を帯び、その紫色の瞳が燦爛と輝く。


「ふぃ~」


 彼女、賀茂輝夜が儀式をしている間、僕は近くにあった岩へと腰をつけ、その姿を眺める。

 その儀式は呪力を持つ者であれば誰でも持っている術式を利用して使う術。例外事例として、呪力を持ちながらも術式を持たぬ僕には出来ぬ所業であり、手伝えることもなかった。


「ふわぁぁ……あいたっ」


「良い身分ね?結斗。自分だけ優雅に休憩かしら?」


 呑気にあくびを浮かべていたその瞬間、僕は頭をはたかれる。


「……終わりましたか?」


 見上げれば、そこには儀式を終えてこちらの前に立つ輝夜の姿があった。


「えぇ?何処かの、没落した八神家の落ちこぼれとは違うもの」


「……ふぅ」


 こちらへの侮蔑の感情を隠さず見下ろしている輝夜の視線に僕は肩をすくめながら立ち上がる。


「でしたら、帰りましょうか」


「結斗が指揮っているんじゃないわよ」


「はいはい。でしたら、輝夜様。これからいかがなさい───」


 ───ますか?

 そう、僕が言いきるよりも前に自分たちの鼓膜を震わせる爆発音が響く。


「えっ?」


「……何?」


 それに反応し、爆発音が聞こえてきた方角。そこには水しぶきを上げる東京湾があるのだった。



 ■■■■■

 

 ランキング入り目指してます!

 良ければ、スクロールして下にある星の評価をしてくれるとありがたいですっ!お願いしますっ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2025年12月28日 23:30

死に戻り転生陰陽師~鬼畜ゲーに転生したので死に戻り能力を駆使してハッピーエンドを作りたいと思います!~ リヒト @ninnjyasuraimu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画