犯罪都市狂想曲
すばる
第1話 犯罪都市の愉快な日常
自宅を爆破された。
大学の試験を終えて数日ぶりログインしてみれば、瓦礫の散乱する更地に立っていて、システムウィンドウが復旧のための資材と資金を無情に告げてきた。
「ぶっ殺す!」
私は吠えた。知らぬ間に家を破壊されていたのだから当然だ。
まあこうなることは薄々勘付いていた。このゲームにモラルを期待してはならない。人と人は殺し合い、奪い合うのが正着だと言わんばかりに殺伐とした治安最悪の街を舞台とするブラックスターダストはそもそもそれを売りにしているし、特に理由のない暴力が振るわれるのは日常茶飯事だ。しかしだからこそ、泣き寝入りなんて真似はできないし、するつもりもない。
「ログインはしているな」
フレンドリストから目当ての名前を見つけてメッセージを送信。数秒で場所が返ってきたので、奇跡的に無事だったバイクにまたがりアクセルを踏み込んだ。
◆
「その格好でバイクってどうなんだ?」
「放っとけ」
ブンヤが指定したのはオフィス街の表通りにある賑やかなカフェ。人が多ければ会話は紛れるとはブンヤの談で、秘密の話は歩きながらするのがいいと宣う。今日は聞かれてもいい会話なのでそこまで気を配ることはない。
「うちを爆破された。私がリアルの都合でログインしていない間に。下手人を探してる」
インベントリからクレジットを選択。実体化させた札束を投げ渡す。指2本立てられる。
「おまえの家って高級住宅街だろ? あの辺はプレイヤー少ないしNPCも少ない。しかも何日かもわからないとか、調べるのも苦労する」
札束をもうひとつ投げ渡すと、黙って受け取ったブンヤはそのまま立ち上がった。
ブンヤがいなくなったので、私は注文したコーヒーとケーキをいただく。大手チェーン店がスポンサーに入っているので、味はまあまあ。味の売り込みをしつつ、あえてメニューを絞ることでリアルの店舗に誘導しているのだとか。でも私はこっちの方が好みだ。食べても太らない。
ティータイムのあとでちょっと資金稼ぎをした私が帰宅すると、ちょうどブンヤからメールが届いた。内容は、調べたけどそれらしい人物は見つからなかったというもの。そもそも留守の個人宅を爆破する程度はソロでもできるし、要領よくやれば警察がつく前には退散できる。そしてこのゲームの警察は現行犯で捕まえなければあとは放置なのでまともな捜査がされるはずもない。痕跡を得たければせめてセキュリティを強固にして、できればNPCの警備を雇うべき。いいところを紹介するとして、警備会社の連絡先が添えられていた。カルバリンという民間軍事会社と裏で繋がっている企業だ。ちなみに私はカルバリンの傭兵を軽く千人は殺している。
「役立たずじゃねぇかっ!」
勢いのままスマホをぶん投げる。スマホは謎の不壊性能を発揮して、無傷のまま手元に戻ってきた。
「うん。まあちょっとは冷静になった」
なんにせよ犯人がわからないのはもうどうしようもない。他の情報屋プレイヤーにあたっても、結果は変わらないだろう。この件で報復はできないわけだ。となると重要なのはむしゃくしゃしているこの気持ちをどうするかなのだけど。
「じゃあ八つ当たりしようか」
どこかで発散したい。ならしょうがない。そういえば最近ご無沙汰だったし、フロントラインにでも喧嘩を売ろうか。
「暴れたいんだからしょうがない」
理論武装完了。私はフレンドリストからショーサを選ぶと、今からカチコミに行くとメールして、手頃なNPCの車を強奪に向かった。
◆
そこそこ頑丈そうな車を確保した私はサブクラスをパイロットに変更し、軍事基地からVTOL機を掻っ払った。地対空ミサイルとスクランブル発進した戦闘機を振り切り、シティー南端の倉庫街の一角に舵を切る。
大手プレイヤーズチーム、フロントラインが不法占拠している区域だ。
「おっと。もう撃ってくるとは。出迎えご苦労」
ブラックスターダストではプレイヤーの成長に伴う火力のインフレに防御面がまるで追いついておらず、車両の装甲は紙同然だ。なので戦闘における車両運用は、射程と破壊力を活かした火力制圧か、重量を利用した正面突破が主となる。
「垂直降下ぁー!」
VTOL機は火薬と燃料を搭載した爆弾だ。ただし自爆特攻するつもりはさらさらない。アサシンはスキルで落下ダメージを軽減できる。着地可能な高さを見極めて離脱。爆炎を背に受けながら受け身を取って、立ち上がると同時に打刀を抜く。宣戦布告を受けて厳戒態勢を取っていたフロントラインのプレイヤーが方々から接近してくるのを受けて、私は高速摺り足で一気に切り掛かった。
このゲームのバランスの基幹はガンナー、アサシン、ボマーの三竦みと言われている。つまりは銃、近接、爆弾である。
ガンナーは手数と射程で爆弾魔を圧倒し、アサシンは高い機動力で銃使いを翻弄し、ボマーは範囲攻撃で動き回る近接兵を吹き飛ばす。これがブラックスターダストの基本的な力関係。ただしこの三竦みは平等じゃない。
プレイヤー人口を見ると、ガンナーが圧倒的に多く、アサシンは極端に少ない。VRゲームという自分の体を動かす感覚でプレイする環境で、三次元的な動きを澱みなくできる人材は限られる。適性と訓練。これらがどうしても必要となり、特にブラックスターダストでは立体機動ができないとアサシンはお話にならない。だって相手は銃を撃ってくる。
ガンナーにあっさりやられて転向するアサシンは多い。そうやってアサシンが減るからガンナーが増え、ガンナーが増えることでボマーは減る。ガンナー>>ボマー>>アサシンの比率は昔から変わらない。
だからこそ、極まったアサシンは暴れられる。
高速摺り足で敵の合間を動き回りながらキルを重ねる。銃という武器は射線に対象が重ならなければ当たらない。うまいやつはほんの一瞬でエイムを合わせて撃ち抜いてくるけど、これだけ味方だらけならそうもいかない。誤射を躊躇わせるだけじゃなくて、単なる障害物としても有用だ。そもそもエリアに障害物も多いしね。
「相変わらず動きキモいな! G級って言われるだけあるわ」
「うっせーぶっ殺すぞっ!」
失礼な言動をしたやつは数秒後にポリゴンに変わった。ついでに飛びかかってきたアサシンたちのナイフをかわし、切り刻みながら離脱。
味方ごと爆殺してやろうと大型爆弾を取り出したボマーがいたので、ホットバーから十字手裏剣を取り出して打つ。刃物のついた投擲武器はアサシンの補正適用範囲。右腕と一緒に落ちた爆弾が、ボマー補正込みの破壊力で爆炎を上げた。
「ははっ。たーまやー!」
爆発は芸術だ。人と赤色のポリゴンが舞うほど爽快感が増す。
爆炎から逃れた敵をどんどん刈り取り、向かってくる奴らも斬り捨てる。
「アサシンやるならこれくらい動けないと」
返事がない。みんな死んだようだ。
十分に発散した私は、壊滅したフロントラインのアジトを悠々あとにしようとして、狙撃で殺された。
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