死神

永江怜衣

第1話 始まり

小学五年生の秋にして、初めて親の言う門限を破った。それがきっと何かの触媒トリガーを引いてしまったんだろう。


 黒いランドセルを背負って、黒髪の前髪を軽く靡かせるも、秋の訪れか、上の服は紺色の長袖、下は紺色の長いジャージでもあるには関わらず、少し肌寒い。


 水色のスニーカーの中の白靴下でさえも温かくは感じられないほどに。


 でも、その肌寒さなんかほんの些細なことにしか思えないのは、門限を破ったおかげで、足並みもランドセルを背負ってる割には軽かった。


 ウロウロと夕日が暮れている家とは反対方向の森林に続く道路へと歩いていく、所謂、寄り道だ。


 ざわざわと自分の何か危険を知らせるような木の風に煽られているような揺れ具合に子どもながら首を傾げる。


 でもまだ十八時くらいなため、大丈夫だろうと、ポケットから取り出した子ども用のスマートフォンで確認しては仕舞う。


 好奇心が勝っているため、少しアスファルトを歩いた。


 そして、石も転げていないアスファルトを軽やかな靴で踏みしめてから、理解した。


 森林の中から、自分を睨む赤い血のような眼光がギラついていたのを。


 しかし、目に入ったときには既に時遅く、その何者かは俺を動物しか持っていないであろう跳力で、素早く横から襲い掛かられたので、俺は押し倒される。


 倒れれば、相手は俺の首根っこを掴み、白いガードレールまで、猫の如く、かなりの飛距離を飛ぶ、その衝撃でランドセルは弾き飛ばされてしまい、道路に落ちた。


 恐怖に怯えて、相手の外見などは目を衝撃の時に瞑ったせいで、しっかりとは目に刻み込むことはできなかった。


 そして、目を開けたときには、ガードレールの外へと、いらないゴミを捨てるように俺を化物は投げた。


 そこからは言うまでもない急降下により、少年は死んだ……はずだった。


 頭からは急降下による血が頭から噴き出ているのにも関わらず、痛みは


 いや、投げて落とされたショックの時もあるべき痛覚がなかった。


 何故だか意味も分からず、少年は瞬きを何度も繰り返す。


 そして、その痛みが無い原因が少年に話し掛けてくる。


『俺を殺そうとしたアイツを殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ……!!』


 ……と。


 少年はその原因の言葉に吐き気がしそうになるも、理解はできているために、返事をしようと声を出そうとしたが、まだ脳内からの出血が止まっていなかったためか、声が出したくても出なかった。


 原因のモノは少年の状態に苛立つように『早く殺せ。殺せ。殺せ。殺せ』と鈍痛を浴びせるように背後から言い聞かせて、この瀕死の状態をどうにかしようと制御に移行して行く。


 まずは声が出せるようにと、脳内の止血が始まり、破壊された細胞も活性化していく。


 それは原因のモノが「死んでいない」ために、「少年も死なない」なので、『アイツを早く殺せ』と頭痛を引き起こすような強烈な命令が少年の脳内から響き渡った。


 

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