豚の貯金箱

くらむちゃうだー

豚の貯金箱

やっと貯まった五万円。二年前から、お年玉や日々のお小遣いなど。少しずつ少しずつ貯めて今日ついに五万円という目標を達成した。…運命の瞬間だ。今貯金箱を壊して、中身を取り出す。手にはおじいちゃんに借りた金槌。さあ割ろう。割ろうとも。いくぞ。それっ

「待って!!」

手が止まった。いきなりどこからか声がしたのだ。き、気のせいだろう。さあこの五万円を持って家電量販店に行くんだ。ずっと欲しかったPC。もう待ちきれない。わるぞ。それっ。

「やめてください。割らないでください!」

えっ。さっきの声は聞き間違いじゃないのか?それともなにか幻聴でも聞こえているのか?

「す、すみません。私は貯金箱です。」

えっ、なんで?なんで貯金箱が喋ったの?

「驚かれるのも無理はありません。私自身も気づいたら、この姿になっていまして…」

そ、そんなことがあり得るのだろうか。確かに魂が乗り移るなどの話は聞いたことがあるが、よりにもよって貯金箱に乗り移ったりするのだろうか。

「あなたは、物心ついた時からその姿だったんですか?」

「ええ、あなたがちょうど一万円を貯めたくらいの時から意識があり、それ以前の記憶は何もございません。」

まるで夢みたいだ。小学校に上がる前、よくしていた妄想に似ている。

「あ、あの、よければお話をしませんか?」

「ええ、まあ、はい、、、」

「ちょうど半年前、あなたが家に女の子を呼んだことがありましたよね。いやー今でも覚えてますよ。とっても可愛らしい女の子でしたから。二人とも初々しくて、当たり障りのないことばっかり話してて、なんだか、かわいいなぁなんて思っていまして…おっと一方的に話してしまいました。すいませんね。」

なるほどそんなとこまで見られていたとは、「それで結局どういうことですか?」

「いやー先ほど以前の記憶がないと、言いましたけど、あの女の子なぜか見覚えがあるんです。初めて会ったはずなのに。」

………あの女の子とは、かなり仲が良かった。同級生で幼馴染で、早くにお父さんを亡くして、お母さんが女手一つで育てていた。だが三ヶ月前、親の再婚が決まり。ずっとずーっと遠くに引っ越してしまったのだ。

「その女の子なら親の再婚で引っ越してしまいましたけど…」

「そうですか。じゃああなたも仲が良かったし、残念ですね…」

しばらく重い空気が漂ったのがわかった。

「もしかしたら、その女の子、私の娘だったのかもしれないですね!」

貯金箱は、明るく言った。

「そっか、もし、そうだとしたら、再婚して、不自由のない暮らしができているということですもんね。いやー良かった。本当に、本当に良かったです。…—」無理に明るく振る舞っているように見える。でも安心しているようにもみえる。

そして、貯金箱の声はだんだんと遠くなった。

もしかしたら、豚の貯金箱は自分があの子の親だったという記憶はあって、女の子と親しげにしていた僕に、娘が元気かどうかを聞いて、安心したから成仏したのではないかな。…


よし、貯金箱をわるのは明日にしよう。

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