異世界はゲート ― 大韓民国軍、民主主義を武器に王となり皇女たちと戦争する

@Jdfuufu

第1話 民主主義は銃より遅く撃たれるが、はるか遠くまで届く


民主主義は銃より遅く撃たれるが、はるか遠くまで届く

ゲートは、ソウル上空に開いた。

正確には「空」ではない。

国防部の衛星管制センター、そのすべてのスクリーンに同時に映し出された現象だった。

重力歪曲。

未確認エネルギー反応。

空間折り畳み現象。

三つの警告音が、ほぼ同時に鳴り響いた。

「異常なし、確認。」

キム・ジェワンは無意識に手首の時計を押さえた。

すでに分かっていた。

この瞬間が、必ず来ることを。

ゲート——

剣と魔法の世界へと繋がる門。

日本では小説の中だけの設定だったそれが、

大韓民国の首都、その中心で現実となった。

「統合軍、全部隊DEFCON2へ移行。」

「空軍、哨戒機発進。海軍、西海艦隊展開。」

「陸軍機械化師団、首都圏防衛態勢に入れ。」

命令は迅速で、冷静で、感情がなかった。

キム・ジェワンは席を立ち、会議室の中央へと歩み出た。

玉座も、演壇もない。

そこにあるのは、ただの円卓だけだった。

大韓民国 陸・海・空 自由統合軍。

そしてこの世界で唯一、

「王」でありながら「大臣」でもある男。

「報告。」

その一言で、室内の空気が変わった。

「ゲートの向こう側に大規模兵力を確認。」

「騎兵、歩兵、魔法兵科の混成部隊です。」

「技術水準は中世……いえ、それ以下。」

「相手世界は帝国体制。」

「国名は《ケツイイル自由民主帝国》。」

ジェワンの眉が、わずかに動いた。

自由民主帝国。

その名は皮肉にも、

民主主義が一切存在しない体制を示していた。

「意思決定構造は?」

「皇帝を頂点とした貴族制。」

「三人の皇女が軍を分割統治しています。」

その瞬間、ホログラムが切り替わった。

三人の女性。

金髪の皇太女。

冷徹な眼差しの第二皇女。

そして——

静かに微笑む第三皇女。

ジェワンは、その顔を見て小さく息を吐いた。

「接触要請。」

「……はい?」

「外交チャンネルを開け。」

会議室がざわめいた。

「現在、交戦直前です。」

「先制攻撃を——」

「先制攻撃は後でもできる。」

ジェワンは即答した。

「民主主義は、いつだって遅い。

だが、説明する機会は与えるべきだ。」

ゲートの向こう側、草原。

銀色の甲冑に身を包んだ

皇太女ケツイイル・ユリカは、馬上で腕を組んだ。

「ふん。」

嘲笑だった。

「あれが侵略者の“王”ですって?」

彼女の前に浮かぶ、光の通信窓。

その向こうには、整った軍服姿の男。

王冠も、ローブもない。

「私はキム・ジェワン。」

「この世界、グリンランラードの統治者であり、

大韓民国 陸・海・空 自由統合軍の長官だ。」

ユリカの目が細くなる。

「長官?」

「王でありながら、臣下でもあると?」

「そう聞こえるなら、その通りだ。」

その返答に、ユリカは一瞬言葉を失った。

「馬鹿げてる。」

「権力を分け与える王なんて。」

「民衆に権限を与えたところで、

賢くなるわけじゃないでしょう?」

ジェワンは、静かに頷いた。

「その通りだ。」

「民衆は、常に賢明ではない。」

ユリカの口元が、勝ち誇るように歪む。

「なら——」

「だが。」

ジェワンは言葉を遮った。

「王も、常に賢明とは限らない。」

その瞬間、皇太女の表情が凍りついた。

「だから我々は“選択”する。」

「間違う権利も含めてだ。」

次の瞬間、草原の奥で鬨の声が上がった。

帝国軍の陣形が動く。

騎兵隊が突撃態勢に入った。

「皇太女殿下。」

第二皇女ケツイラ・ユラカが低く告げる。

「外交はここまでのようです。」

ユリカは、短く沈黙した。

そして——

笑った。

「いいわ。」

「なら、見せてあげる。」

剣を抜く。

「この世界の民主主義が、

我が帝国の軍勢より強いかどうかを。」

「交戦承認を要請します。」

会議室のスクリーンに、投票画面が浮かび上がった。

【グリンランラード自由連合民主王国】

【戦時緊急軍事決議】

賛成 / 反対

制限時間、30秒。

ジェワンは何も言わなかった。

説得も、命令もない。

秒針が進む。

10秒。

20秒。

そして——

【賛成 63.8%】

ジェワンは、目を閉じた。

「全軍。」

「民主決議に基づき、作戦を開始せよ。」

空が裂けた。

それは魔法ではない。

科学だった。

K-Gフレーム01。

銀灰色の巨大機動兵器が、ゲートを越えて降下する。

帝国軍の騎兵たちが、凍りついた。

「な……なんだ、あれは……!」

ユリカの瞳が大きく見開かれる。

「……嘘……」

巨大機体の外部スピーカーから、無機質な音声が響く。

『本作戦は、自由連合の決議に基づき執行される』

砲身が回転した。

そして——

戦場は、完全に別次元の戦争へと変わった。

ユリカは歯を食いしばる。

「キム・ジェワン……!」

「あなたは、王じゃない!」

ジェワンは、操縦席の中で静かに答えた。

「違う。」

「私は王だ。」

一拍置いて、彼は続ける。

「だが、独りで決めない王だ。」

その日、

ケツイイル自由民主帝国は初めて理解した。

この異世界で最も恐ろしいものは、

魔法でも、剣でも、王でもない。

選択権を持つ軍隊だということを。

そして皇太女ユリカは、

自分でも気づかぬうちに思っていた。

この戦争の果てに、

この男との関係は、

単なる敵で終わるはずがない——と。



第1話・完

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