プロローグ いちのに!
なんとか人の流れから脱出し、再び目的地に向かって歩みを進める。
荷車も、荷物も、鞄も・・・ちゃんとある!
しばらく道沿いに進んでいけば、ひと気は徐々に減っていき、僕から商店街やあの広場の熱気をはらうよう、澄んだ秋風が吹き抜けた。そのままその風は街路樹の葉と戯れるようにぶつかって、ザザッと静かな音を奏でる。
一呼吸つき、髪を整え。
この閑静な区画を通る人の数はまばらだが、どこはかとない品を感じる。セジンさんのお店は、そんな路地の一角にあった。
僕は、人の熱気もお祭りも、そのどれもを楽しんでいるけど、静かなところにそっとある、繊細な美しさも大好きである。キョロキョロと建物や道路を彩る装飾を眺めながら、歩みを進める。
工房と店舗が一体となったセジンさんの店は、まさにこの場所にふさわしいような、品と華やかさを兼ねていた。
工房側の車庫に荷車を丁寧に固定していると、僕の到着を待っていたかのよに、ギィッと音を鳴らして扉が開いた。
「アルト君、いつもありがとう。お待ちしていたわ!」
そのおっとりとした口調は、彼女の優しさを助長している。エファさんは、セジンさんのお店で働く調香師兼「ハンター」だ。
年齢は僕より上(詳しくは知らない)らしいが、華奢で小柄な体躯と、栗色の髪と瞳から想起される柔和な雰囲気は、なんだか守りたくなるような、そんな気分に誘われる。
ー作業用の白いエプロンも、ダボついているし。可愛い。。。
「こちらこそ、毎度ありがとうございます。お品物のアディルフラワー3箱になります!」
僕は荷車にかかった布を捲って、ドヤッと木箱を見せつける。
「はい。確かに。お疲れさま・・・重かったでしょ?よかったら中で少し休んでいって!」
彼女は笑顔で近づくと、手早く木箱をまとめあげ、ひょいっと店に運んで行った。
「あっ!手伝いますか!?」
「無理しなくていいよ!私には『これ』があるから!」
僕は慌てて、エファさんについていき、もう何度目かの、感嘆を漏らす。
工房の中央に置かれた、美しい花の紋様が刻まれた2の宝具と・・・そして、それを囲うように置かれたさまざまな他世界の花や植物が、これから素材として使われるとは思えないほどに美しかった。
「お!アルトくん!いらっしゃい!」「こんにちわ!元気にしてた?」
この工房で働く人達が、僕に挨拶をしてくれる。
「皆さん!こんにちは。少し、お邪魔します!」
僕は少し照れながら挨拶を返して、でも嬉しくてはにかんだ。
ーーーー
「エファちゃんも、ちょうどアルトと話したがっていたんだ。しばらく付き合ってあげてよ。」(“∀”)
「ちょ!リグスさん!」Σ”(‘’!?)
「スタッフルーム使っていいわよ!」(“∀”)
「あ、ありがとうございます!失礼します!」(´v`*)
「もう!」(”‘-’”)
ーーーー
スタッフルームに置かれた丸い机に向き合って、僕らは会話に花を咲かせた。
内容はもちろん、魔性生物「ピピア」について、だ。
他世界にも当然、様々な生物が跋扈している。それらは、僕らが住む世界、「現行世界」では考えつかない奇妙な風貌をしたものから、割と馴染みのある見た目をしたものまで、様々である。
そして、僕らの心を射止めた「ピピア」ちゃんは、「現行世界」ではあまり見ない奇妙な風貌をした生き物だ。フィン夫妻のとってきた花の中に偶然紛れ込んでいた、親指ほどの小さな黒き生き物が、カサカサと走り回る愛くるしい姿を目撃した時、僕の心は、運命という言葉を知ったのだ!
僕の前に座られているエファさんは「国際ピピア愛好家団体」の一員らしく、ハンターとして「第一世界」へ向った際には、ピピア関連のお土産を僕に下賜してくださる僕にとっての師匠でもある。・・・僕もいつか、彼女たちと一緒にピピアを探しに行きたいな。
今日も持ってきたノートにペンを走らせて、貴重な情報を書き留める。
「あ!もうこんな時間。また今度ゆっくり話しましょ?そうそう、セジンさんに頼まれたんだけどね、新しい香水の試作品、もらっていてくれるかな?」
ふと思い出したかのように、エファさんがエプロンのポケットに手を突っ込んで、3つの小瓶を取り出した。
「これが、アディルフラワーの・・・」
ーーーーーー
セジンさんのお店の工房には「フラワーエッセンス」という、「道具型」の「宝具」が中央に2つ置かれている。
この宝具は、中に花などの素材を詰めて「レーゼ操作」を適切に行うことで、香り成分を瞬く間に抽出するという機能を持っている。
ーーーーーー
「では、こちら受領証明書です。・・・次来るときは、ピピアのお土産、期待してて?」
「あ、ありがとうございます師匠!!」
会話を終えて、扉の前に僕らは立った。
そして、下げた頭をゆっくり上げると、エファさんの笑顔の上には、柔らかな秋の光が灯っていた。
ーーーーーー
ーちなみに、「フラワーエッセンス」にも個性(性能差)があるらしく、セジンさんは、新たなフラワーエッセンスを求め、今もなお、ハンターとして奔走している。
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