世界はパシリ(’ロ’*!!?)を求めてる!!
oyobi_suuki
プロローグ いち!
初秋。
澄んだ風にのって、ふわりと舞った心地よい香りが高い空をほのかに彩る。
それは、たっぷりと水を浴びた店前の花が、楽しそうに遊んだ結果か。
もしくは、先ほど大量に干した衣服の蒸気か。はたまた。
ドタドタと、店の中から階段を駆け上がる音がする。
窓がバッと開いて、2階の白いカーテンがチラチラとはためく。
「アルト!セジンさんの店にアディルフラワー持っていって!」
そこから元気のいい女性とその声が乗り出して、僕を見下ろしニカっと笑う。
「はーい!リシルさん!いつもの、3箱ね!」
僕は、それに負けじと大きな声で手を振った。
店の扉を丁寧に開け、小さく花がいけらた簡素なカウンターを小走りで抜ける。
アディルフラワーを保管している、第一倉庫はこの先だ。
期待を込めて扉をギィと開けば、空いた口から感嘆の声が口から溢れでる。
「さすが!今回もすごいな!」
1階の大部分を占める第一倉庫がとても狭く感じるのは、月初恒例のことだった。
胸いっぱいに息を吸いこむ。様々な花や木、植物の香りが僕の胸を満たして高揚させる。
ーだけど、そういう時こそ慎重に。
搬入口から細く差し込む朝日を頼って、僕は木箱の隙間をそろりそろりと進んでゆく。
「えっと・・・あったあった。」
いくつかの木箱は積み上げられて、僕の背丈に迫っている。
そして、アディルフラワーが詰められた赤茶色の木箱はウチの人気商品だけあって、山積みだ。
僕はぴょんと足を伸ばして爪先立ちをし、その1つを両手で掴みこむ。
「・・・よいっしょ!!おお!!」
僕がこの仕事を手伝うようになって、かれこれ5年経っているが、この木箱を一人で運べるようになったのは14歳になった今年の夏のことだった。
ひ弱な体型に「やや」コンプレックスを感じている僕にとって持ち上がるということは、密かなモチベーションとなっていた。
ーーーーーー
アディルフラワーは、「第一世界」マスティル近辺の草原に群生している、真っ赤な一輪咲きの花の名前だ。見た目の美しさと気品のある香り、そしてその希少性から香水の原料として、とて高い人気を誇っている。
ーーーーーー
「おおお!!重い!!」
よろよろニヤニヤと、わずかに空いた細い道を通り過ぎ、搬入口に着けられた、相棒の荷車へと辿り着く。
そして、荷台に載せようとグッと木箱を持ち上げた瞬間・・・
「あっ。や!まずっ」
重心が後ろにのけ反り、後ろへ倒れる。
「おお!?ったく。大丈夫か?アルト!」
そんな僕の情けない背中を、大きな掌が支えてくれる。
・・・あ、危なかった。
それは、何度も感じた大きさだった。
「・・・あはは。助かりました!ラセッカさん!」
身寄りのない僕を優しく迎えてくれた「リシル・フィン」さんと旦那の「ラセッカ・フィン」さんご夫妻は、第一世界の植物をメインにハントする、一流の”ハンター”だ。
危険な「精霊クエスト」は、しばらく受けていないらしいのだが、ふたりが「所有者登録」されている「精霊糸」と、「優先利用登録」された「精霊糸」をあわせると、計12本にもなる、凄腕だ。
さらに、そのうち4つの「精霊糸」は「第二世界」へ行くことができる代物だというのだから、国営のハンター管理組織「ZRM」の厚い信頼が伺える。
年齢が35歳を超えてから、「所有者登録」された精霊糸の利用料で得た利益と、冒険を通して出会った縁を使って、「第一、第二世界」の植物を主に扱う、卸し専門の花屋(のちに植物も扱うようになった)を新たに始めたらしいのだが、その高い鮮度と品質から今では質の良い顧客を多く抱える一流店となっている。
2人は複数の仲間を率いて代わる代わるに他世界へと渡っており、昨日ラセッカさんが2週間のハントを無事に終えて、無事に帰ってきてくれたのだ。
「そういえば、アルト。宝石店アルバードで、ディエル鉱石30gを買ってきてくれないか?」
一人では残念なことに3つの木箱を運べず(2つ目で腕がプルプルになってしまった)荷車に乗せるところまで手伝ってくれたラセッカさんが、何気ない口調でそう言った。
「ディエル鉱石!?ですか?」
「ああ、ディエル鉱石だ。」
ラセッカさんは、それが何事もないような・・・あからさまな振る舞いを続けている。
・・・ディエル鉱石もまた、第一世界で取れる鉱物だ。
しかし、とても危険という情報は有名であり、爆弾の材料にも使われてるとか、なんだとか。
「・・・そんな希少な鉱石、僕にはちょっと重たいんですけど?」
皮肉を込めて、やんわり拒む。・・・ラセッカさん、そもそも危険物の売買は法律で禁止されてますよ?
「そんな顔をするな大丈夫。アルバードの店主「アドラ」とは長い付き合いだ。それに、彼はお前のことも知っているしな。」
ラセッカさんは、快活な声を響かせて、僕の肩を優しく叩いた。
そして、あからさまに話を閉ざした。
ーーーーーー
ゼフィティム帝国帝都セラシュア。
僕がフィン夫妻と住むこの大都市の鮮烈な発展は、とどまることをまさにしらない。
様々なものが瞬く間に売買されて、最新の流行が街を彩る。
この帝都・・・帝国、いや、この”世界”は、「精霊様」と「精霊糸」により、一変したのだ。
ーーーーーー
「これが代金だ。盗まれないように気をつけなさい。」
信じられないほど重いショルダーバックを首にかけられ、僕はギョッと目を開く。
流石にこの重さはありえない。・・・ありえないですよ!とギョッと目のまま、じっと抗議を込めて見つめるが・・・ラセッカさんの、誤魔化そうとする穏やかな笑みは深まっていく。
・・・20秒ほど負けじと、見つめ続けて。
「くぅ・・・わかりました。いってきます。」
「ああ、気をつけて。いってらっしゃい!」
ラセッカさんに見送られながら、僕は日の差す路地へと荷車を引いた。
・・・・・・・
「我らの”クエスト”を受けなさい。さすれば、この世界に、更なる希望が訪れよう。」
ーそれはまさに50年前の邂逅だった。
突如として現れた「精霊様」が人々に齎したのは、「未知」であり「希望」であり、つまりは「冒険」であった。
輝く糸「精霊糸」。そして「レーゼ」という力の満ちた不思議な他世界に、再現不能な「宝具」の数々。たちまち人類の心は奪われたのだ。知りたい。冒険に出たい・・・!という好奇心に。
・・・・・・
僕は鞄(ショルダーバック)を揺らしながらカタカタと荷車を引いて、商店街を駆けていく。この一体が取り扱うのは「他世界へ行けるようになっても必要な」この世界の新鮮な食材たちだ。通路は人でごった返して僕も賑わいの一つとなった。
しかし。・・・どれも立派で美味しそうだ。
ずらっと並んだ、新鮮でさまざまな彩りを眺めると、ついつい不機嫌なことを忘れてしまう。
「アルト!今日も精が出るな!りんご買っていくかい?4個、3SG(シルバーギーク)。どうだ?」
長年お世話になっている青果店のおっちゃんが、僕を見つけてそういった。
「はは・・ごめんね、おっちゃん。・・・僕今日、お金持ってないんだ。」
「・・そうか?なら、ちと傷んではいるが、これ持ってけ!!なんだか知らんが頑張れよ!ほれ!」
放り投げられた真っ赤なりんごが、高い空をひらりと舞った。
「ありがとう!おっちゃん!次は、ちゃんと買いに行くから!」
僕はそれをキャッチして、へへっとはにかんだ。
ーーーーーー
「他世界の素材」と、「宝具」の影響は、農業においても例外ではない。
ーーーーーー
僕はそのまま、交通のぶつかる中央広場へと抜けていく。
『号外!!号外!!
ハンターのラシア率いる「MONA・UPS」が、第四世界の「精霊クエスト」に王手をかけたぞ!!!!残るは、「ラギアの目」だけだ!!』
噴水がブワッと湧き上がり、その憩いをたちまち塗り替える。
新聞記者たちが大声を出して、少しでも高いところに身を置いて、できたばかりの号外を勢いに任せてばら撒いた。
『おお〜!!!』『このクエスト報酬って確か、「第五世界」へ行ける「精霊糸」だったよな?』『我が国もついに、第五世界!!』『第五世界の素材って、一体どれくらいすごいんだ?!』『ネヴィス王国の「mode-demo-E」を遂に超える時!!』『さすがランク8!!まさに英雄だ!』『春の英霊祭50thに間に合うか?!』
そして、広場は瞬く間にもその話題へと染め上げられる。
どんなニュースよりも、僕らの心を焚き付けるのは、いつだって「英雄の活躍」である。
人々が号外を受け取ろうとごった返して、僕もその波に飲み込まれモミクシャになる。
!!今、僕にぶつかった人が、鞄から鳴った金属音に訝しんでる!!
ーーーーーー
「精霊様」は、僕らの住む「現行世界」や、「他世界」の至る所に現れて、出会った人間に「精霊クエスト」を依頼する。
それは、「アイテム収集」や「魔性生物の討伐」、「理想郷」の攻略など多岐に渡たり、それらを見事クリアした者には報酬として「精霊糸」や「宝具」を与えた。
ーーーーーー
このまま、スリにあったら大変だ。僕も非常に気になるし、号外をどうにか手に入れたいけど・・・背に腹は変えられないよね。
荷車の車軸に嵌め込まれた「レーゼ結晶」が、人混みの中でも、ぼんやりとわずかに輝いている。
「すみません!どいてください!通りまっs!そこどいて!!」
ーーーーーー
人類は未だ、他世界に渦巻く不思議な力「レーゼ」について、多くを理解できてない。
しかしあらゆる実験において、
1.おそらく「物体の状態」を書き換える魔法のような力であること
2.特殊な条件下でのみ人類に扱うことができること
が、この50年で検証されてきた。
ー例えば、僕の引くこの荷車は、第一世界の木材と金属でできている。そして「レーゼ」の指定事象顕現-摩擦軽減-が安定するよう、刻印加工がされていた。
つまり、重い荷物が軽い力で引けるのだ。
ー本来「レーゼ」は、一般人では扱えない。
しかし13年前、帝国の研究機関「リザイン」が確立した、「レーゼ」を結晶に閉じ込める革命的な技術がそれら問題を部分的だが克服し、ゼフィティム帝国は更なる英華に足を踏み込んだのだ。
ーーーーーー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます