第5話 デザートライダー

 リスポーン地点は黄昏の乙女号だ。

「ソルトも死に戻りか」

「まあな」

 同じくリスポーンしたギルドメンバーと話しながらベッドから起き上がり、全壊したモルフォを修理に出してから司令部に情報収集へと向かう。

「これまた、ずいぶんと酷いことになってるな」

 見晴らしのいい司令室に登った俺の眼に見えたのは、凄惨な戦場の様子だった。

「どんな状況だ?」

「見ての通りだ。さっきの範囲攻撃に加えて、砂漠轟虫本体が派手に暴れ回るようになったせいで死に戻り多発。あの大きさでは動くだけで災害だ。イボを狙おうと近づいていたヘビー級のサンドシップが押し潰されて砕けたよ。正直、直撃したらこの艦でも危ない」

「とにもかくにも範囲が馬鹿でけえ。動きは大振りだが、でかさの分だけスピードもある。この艦隊は元から近づくつもりがないからいいが、ライト級でも動きを事前予測しないと避けきれねえらしい」

「おまけに的が動くせいでイボを狙う難易度が跳ね上がってる。遠距離砲撃じゃぶっちゃけ運ゲーだな。やつ自身が潰すおかげで生み出されたワームは勝手に死んでくがの救いか」

「つまり、想定とは違う形だが、ここからは我々のターンということだ」

 なるほどこれだけ動かれると、本体のどこかならともかく、弱点のイボを直接狙うのは難しい。着弾までのラグが大きい遠距離からの攻撃ではまず無理だ。イボの破壊は小回りの利くライト級で近づいて行う必要があり、その時ネックだった取り巻きは砂漠轟虫自身が潰してくれる。

 打ち合わせを終えて、予備の機体に乗り込む。と言っても全く同じ造りのモルフォだが。黄昏の乙女号になって一番のメリットはこれだな。スペースが増えたおかげで予備の機体を気兼ねなく持ち込める。修理を待つ必要がない。

「ひでえことになってるな」

 砂漠轟虫との距離を詰めながら、戦場の様子を眺める。厄介だった取り巻きが減って難易度が下がったかといえば、決してそんなことはない。砂漠轟虫はその巨体だけで厄災と呼ぶにふさわしい存在。最初はただ移動していただけに過ぎなかったそれが今や完全な戦闘形態となり、砂の海を躍動しながら砂の砲弾をまき散らすのだ。戦場にもはや安全な場所などない。

 確認できたイボの数はあと10個程度。多くが下部に偏っている。最初から比べればもう残り一割を切っているくらいだが、ここからがかなり厄介そうだ。

 俺の接近に反応したわけじゃあるまいが、砂漠轟虫が巨体を躍動させこちらへと突っ込んでくる。現在の砂漠轟虫の主な攻撃手段は三つ。口から放たれるブレス、表皮の隙間から撒かれる砂弾、そして体当たり。このうち最も警戒すべきは体当たりだ。ブレスはそもそも遠距離の大型艦狙い、砂弾はあたってもそう痛くない。しかし体当たりは即死級のうえ、範囲が広すぎて位置取りを誤れば逃げ切れない。いかに砂漠轟虫の進行方向を避けながらイボを射角に捉えるかが肝だろう。もっとも、それが容易でないからこそ山ほどのライト級に追いかけられてまだ倒れていないのだ。

 モルフォもリムルス同様、機関砲は前方に固定されている。おかげで命中精度は高いが、避けながら狙うということは不可能だ。ここは回避を優先。砂漠轟虫の進路から離れる。そうして今度こそ攻撃だとモルフォを旋回させたところで、俺は、なぜ砂漠轟虫がいまだ健在なのかを理解する。

「なるほどな。ここまで戦いづらい相手はほかにいない」

 機関砲が前方に固定されているモルフォは、当然正面にしか攻撃できない。砂上魚雷も同様だ。そしてこのタイプの砲は現実の飛行機と同じように、敵の背後をとって撃ち抜くのが本来の戦い方だ。モンスターが相手であってもそれは変わらない。しかし敵は縦に長いワーム。後ろからでは弱点のイボを狙うのは不可能だ。前を横切る敵を撃つこともできなくはないけれど、命中率は落ちるし、そもそも狙える時間がかなり短い。

 俺と違って旋回砲塔を積んだサンドシップなら側面を並走しながらイボを狙うこともできなくはないが、それで狙ったところに飛ばすのは至難の業だ。もともとそういうのはミドル級以上の大型の敵に、至近距離まで近づいて撃ち込む時のやり方だ。イボのサイズはライト級程度しかないし、本体が邪魔で至近距離まで行くこともできない。

「正面から突っ込む無茶が一番の正攻法ってわけだ」

 もちろんそれはハイリスクな行為。俺と同じ考えに至って攻撃を仕掛けたサンドシップが、すでにいくつも破壊されている。

 が、ここで日和って安全圏から眺めているつもりはない。

「やってやるよ」

 砂漠轟虫の進路を予想し、前に回り込む。同様の動きを見せるほかの船に気を配りながらも、視線の中央は迫りくる巨大な怪物に。

「さっきよりは減ってるな」

 ひとつかふたつだけど。残ったイボに射線をあわせ、砲撃。25mmの徹甲榴弾が走り、イボの一つに吸い込まれる。だがさすがにそう簡単に落とせるものでもないな。戦艦の砲撃なら一発だったが、そんな威力はもちろんない。それに砂漠轟虫にあわせて激しく上下に動くから、イボへの命中率は五割がいいところだ。

 撃っている間にもサンドシップは前進する。砂漠轟虫の巨体が、どんどんと近づいてくる。距離が詰まれば命中率も上がるが、回避に移らなければ間に合わなくなる。そのぎりぎりを見極めるべく、砂漠轟虫を正面に睨む。

 周りを真似る意味はない。機体ごとに速度も旋回性能も異なるからだ。だからといって目に入るのを止めることはできないし、ちゃんと見ていないといけない。接触事故は怖い。

 試されるのはメンタル。流されるな。自分自身の勘と経験を信じきれないやつから砂の海に沈むのだ。

「ちっ」

 もう少しで壊せる。だけどそれは無理だ。あきらめることを判断し旋回。直後に俺の狙っていたイボは砕けたが、それをなしたやつは避けきれずに呑み込まれた。

「これでいい」

 手柄はとられた。だが俺は生き延びた。そっちのほうが重要だ。まき散らされる砂弾を回避しつついったん離脱。再度突入すべく緩やかに旋回する。

 それからさらに二度、攻撃を仕掛けたところで、砂漠轟虫が巨大な咆哮を上げた。より一層激しく動き回り、全方位に砂弾をまき散らす。追い詰められたボスが見せる最後の大暴れ。いわゆる発狂モードというやつだ。それを示すように、ついに最後の一つとなったイボが白く発光し、これで最後だと主張する。

 それを見て、これまで遠巻きに様子見していたサンドシップの一部も仕掛けだす。ラストアタック報酬狙い、だろうな。たいていのボスは運ゲーだけど、今回はイボの破壊という明確な目標がある。

 だがしかし、だ。砂漠轟虫はより激しくうねり、とどめを刺そうとするいくつものサンドシップを、ことごとく薙ぎ払っていく。

 何か特殊な行動が追加されたわけではない。だが動きが激しくなったことでシンプルに難易度が跳ね上がっている。ならしり込みするかといえば、もちろんノーだけどな。

「やってやる」

 うまい具合、やつがこっちに突っ込んできた。入り込みは上々。正面にその姿を見据え、互いに最速で彼我を詰める。

 機関砲は、撃たない。砂漠轟虫の動きはかつてなく激しく、俺は飛んでくる砂弾を避けないといけない。むやみに砲撃してもほとんど当たらず、イボの破壊はかなわないだろう。だからこそ狙うのは必殺の一撃。戦艦の主砲に匹敵するライト級の切り札。当てられる瞬間を確実に見極める。

「ここ!」

 解き放った近接砂上魚雷が、砂の海を切り裂き標的へと突き進む。当たった、という確信はトリガーの瞬間。砂漠轟虫の動きは、一見ランダムなように見えて、規則性がある。例えば水泳がそうであるように、ワームにも泳ぎ方というものがあるのだ。だからこそ予測できる標的の移動と、砂を跳ねる魚雷の挙動。両者が完璧にかみ合い、淡い白を爆炎が塗りつぶす。

 すべてのイボを破壊され、砂漠轟虫の巨体が砂のように崩れていく。

 だが体をぼろぼろと崩壊させながら、それでもなお巨体は止まらない。砂をかき分け、凶悪極まりない大口を開きすべてを呑み込まんと突っ込んでくる。

 それは、ただでは死なないという砂漠轟虫の抗いか、無茶な特攻への運営からの戒めか。

 俺は全力でモルフォの舵を切った。体に圧がかかり、急速に船体が右へ傾く。

 だが叫んだりはしない。


 相棒の能力は誰よりわかっている。

 敵の能力はずっと見ていた。

 だから、当たらないと知っている。

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砂漠轟虫討伐戦 砂海を往くものたちのMMO戦記 すばる @subaru99

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