Blood Night Survivor 30人ファミリアvs俺

すばる

第1話 悪意の萌芽

「どうした? ビビってんのか? ゾンビプレイなんてやってる中二病のくせに、心臓はノミみてえにちいせぇんだな。安全なおうちの中から出たくないでちゅかー?」

 上から声が聞こえてくる。言いたい放題。およそ文明人が発しているとは思えない煽り文句は、しかしひどく胸に来る。何より、一方的にやり込められ、どれだけ言われても反撃できないのがつらい。今すぐやつらの頭を叩き砕いてやりたいが、洞窟の奥から少しでも顔を出せば、その瞬間銃弾が飛んできて蜂の巣にされる。

 しかし洞窟の中もまた、安全な場所ではない。ひとしきり言いたいことを言い終えた敵は、そのまままとめて洞窟の中まで下りてきたのだ。

「まじかよ」

 サバイバーにゾンビを攻撃するメリットはない。探索時に排除したり身を守るために撃破したりはもちろんするが、こうして巣を攻撃したところで、得られるものは何もないばかりか、大量の弾薬を消費して大赤字だ。だがここまで攻めてきている時点で、ゲーム的なメリットはすでにないもの。はなからそれが目的ではないだろう。

「ふーにくくーん。あーそびましょー」

 敵地で大声でわめきながら、無数のライトで洞窟を照らす。隊列も何もない酷い行軍だが、数と装備は一丁前。こちらはこのような事態をそもそも想定していないため、撃退など叶うはずもなく。ひどく腹の立つ言葉を浴びせられながら、戦力も施設も、根こそぎ破壊されるのだった。


 ◆


「ぶっ殺す!」

 リスキルを逃れてランダムリスポーンした俺は、腹の中の怒りのままに叫んだ。

「絶対に全員ぶち殺して、あいつらの拠点丸ごと焼き払ってやる!」

 大声に驚いたか、近くにいたゾンビがそっとこちらを見る。だが、感情を吐き出したことで、少しは頭も落ち着いた。

「報復するにしても、今すぐは無理だ。やつらのせいでなにもかも壊されちまったし、どちらにせよ作戦を立てる必要がある」

 敵は少なくとも20人以上のファミリアだ。対して俺はソロ。まっとうに戦っても勝てないことはわかりきっている。

 ともかくまずは立て直しだ。とりあえず、先ほどこっちを見たモブゾンビに近づいて頭に右手をかざし、支配下に置く。

「取りあえず肉壁はゲット。あとはどっかの建物に入って、ひとまず数を揃えるか」

 形ある資産はすべて壊されたが、俺自身のレベルが落ちたわけじゃない。ゲーム開始直後と比べれば、立ち上がりははるかに簡単に進むだろう。

「問題はこっから建物のある場所までサバイバーに見つからず移動できるかだな……」

 サバイバーにはゾンビを積極的に攻撃するうま味はないが、近くにいれば安全のためにとりあえず狩っておくのが普通だ。だが今鉢合わせしたらそれこそ初心者くらいにしか勝てない。

 マップと時刻を確認。現在地はワールドの北西部の森の中で、すでにあらかたのマッピングは済んでいるのでめぼしい場所もすぐに見つかった。西に1キロほど進んだところにある中規模の街。街や建物はゾンビが多く数を集めやすい。問題は大量の物資を目当てにサバイバーも集まりやすいことか。

「今ゲーム内時間が午後7時。リアル1時間で1日経過だから、あと2分ちょいか」

 Blood Night Survivorでは午前6時から午後8時までが日中、それ以外が夜間と設定されている。日光の元ではゾンビは耐久面が大きく弱体化するため、遠距離から1発もらっただけでもかなり危ない。

 逆に夜間は暗くなってサバイバーの視界が大きく制限されるほか、各地でモブゾンビがスポーンすると同時に活動が活発化するため、サバイバーの多くは内職で時間を使い、外には出たがらない。ある程度慣れたプレイヤーなら普通に野外活動していたりするので油断は禁物だが、こちらにとっては動きやすい時間帯だ。

「夜まで待って移動もありだが、今だとやられてもそんなリスクがないな。どうせ移動中に日が暮れるし、さっさと向かうか」

 なるべく見られにくいよう、傾斜や障害物を意識して走る。ゾンビの便利なところはスタミナが無く走り続けられることだ。ノンストップで森を駆け抜け、ゲーム内時間が午後8時を越したあたりで目的の街にたどり着く。

 中央の14階建てビルを象徴とする街の名前はドーテム。インフラも真っ当な営みも消えた死んだ街だが、文明の気配は色強く残る。

 もともとの人口密度が高かった、という理由で街には大量のゾンビが配置され、同時に文明の遺産、ありとあらゆる物資が大量に残された宝の山でもある。

 物資の再配置は5日ごと。今日は3日目なので特に旨味のある物件はあらかた探索されているだろう。物資と同時に再配置されるゾンビも殲滅されているはずだ。街中では自然スポーンの率も上がってるらしいが、それを集めていたら効率が悪い。

「なら、狙いはドーテムビルだな」

 街のシンボルにして最大の建物。だが大きさに対して特段旨みがあるわけでも無く、長くてだるいとサバイバーには人気がない。探索は日中に行いたいのに、ドーテムビルは時間がかかりすぎてだいたい日が暮れてしまうのだ。

「よし、ゾンビは残ってるな」

 入り口付近に立ち尽くしているゾンビを見て狙いが正しかったことを知る。そのまま近づき、右手をかざして支配下に。

 ゾンビの上位種であるディアボロはモブゾンビに同類とみなされるので、攻撃されることはない。というかBlood Nightではゾンビ同士、サバイバー同士では攻撃にダメージが発生しない仕様だ。なので簡単に進める進める。それ以外に地形トラップの類もあるのだが、俺はドーテムビルを含むだいたいの建物の内装と罠の配置を把握しているので、引っ掛かることはない。

 この辺りのサクサク感はゾンビプレイヤーならではだろう。もっとも探索アイテムは使わないし、回収もできないのだが。

 現在俺が同時に制御できるゾンビの数は8。そのため強い個体を厳選しつつ、枠に入らないゾンビは心臓を回収する。これはあとでゾンビを生産するのに必要なアイテムだ。

 そうして戦力とアイテムを回収しつつ進み、次に残すべきゾンビをどちらにするかで悩んでいると、不意に誰かの声が聞こえてきた。

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2025年12月29日 12:00
2025年12月30日 12:00
2025年12月31日 12:00

Blood Night Survivor 30人ファミリアvs俺 すばる @subaru99

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