【論考】桃太郎の契約

くるくるパスタ

第1話 出発

 桃太郎のことを知らない日本人はいない。川上から流れてきた桃から生まれた少年が、きびだんごを腰につけ、犬・猿・雉を家来にして鬼ヶ島へ向かう。鬼を退治し、宝を持ち帰る。めでたしめでたし。

 あまりにも当たり前のこの物語を、ある日、私はふと立ち止まって眺めてみた。

 そして、奇妙なことに気づいた。

 きびだんご一つで、野生動物が「家来」になる?

 これは、よく考えるとおかしくないだろうか。

 犬も猿も雉も、本来は野生動物である。それが、団子一つを報酬に、命がけの戦いに身を投じる。しかも「家来」として、少年に従属する。彼らはなぜ、そんなことを受け入れたのか。

 世界の神話や伝説を見渡せば、動物を従える英雄は珍しくない。しかし、そこには常に何らかの「理由」がある。神から授かった力、魔術的な契約、血の盟約、あるいは聖なる人格による感化。何の力も持たない少年が、ただ食べ物を差し出すだけで動物を従者にする――そんな話が、他にあるだろうか。

 私は一つの問いを立てた。


「なぜ桃太郎だけが、動物を家来にできるのか?」


 この問いに答えるため、私は世界中の神話と伝説を探す旅に出た。

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