第43話

 地下一千二百ライン(1200km )の死行。

 一行は、世界を侵食し始めた五箇所の補助魔導エネルギー供給センターをすべて屠り尽くしました。  

 しかし、ヴィルヘル(魔物 )が消えても、道は険しく困難な道のりが続きます。

 気温が22ケルト(22度)前後に落ち着いたのだけが救いでした。

 一行はもはや気力も体力も限界を超えていました。

 全員の魔力は枯渇寸前、怪我の痛みはなかなか引きません。

 エリカの腕やバハルの足、アルベローゼの脇腹にはしばらくの休養が必要な重傷の痕が刻まれています。

 回復魔法により、表面上は「治ったように見える」のですが、休養と回復魔法の継続が望まれるのでした。


 彼らが体力の限界を感じながら何とか辿り着いたのは、都市部からは少し離れ、かつて全ての拠点からアクセス可能だった戦略的要衝――『軍事魔導兵器試作機演習センター』。

 そこで三日間のキャンプを張ることを決めたのでした。


 キャンプ二日目

 少し元気なアルベローゼが操作した中央端末から、ノイズ混じりのホログラム映像が流れ出しました。

 画面には無機質な図形と、複雑な『古代魔導エルフ語』の文字列。

 映し出される画像は地上のヴィルヘル(魔物 )を全て集めた図鑑にすら見えました。

 アルベローゼが、その内容を戦慄と共に翻訳し始めました。

 「みんな、こっちに来て。見て!」

「『ルーン・パルス』型(初期型) 」

「魔導エネルギー供給センターの魔導波を受信して動く。役割は世界中から適切な下級国民を捕らえ『魔導エネルギー原料集積センター』へ運び続けること……人間を燃料の『薪』として集積していたのね。駆動エネルギーが不足すれば、予備の非常食として人間を捕食するプログラムまで組まれているよ。『ゼノ・ゼロ』搭載機」

「『ヴェノ・シェル』型(中期型)」

「大型の試作型が多くて、個体によって魔導波型、魔導波Ω型、そして両方を使えるハイブリッド型が混在している。戦闘特化型のため、捕食による魔導エネルギー補給機能は無いみたい。『ゼノ・ゼロ』搭載機」

「海王『フルム・ハヴギュヴァ』巨大ワーム『ヨルムン・ガンドゥ』とかがこれだね」

「『アニマ・コア』型(戦略局地戦用強化型)」

「新型。補助魔導エネルギー供給センターから放出される魔導波Ωでのみ動き、蓄積エネルギーで供給停止後も最大三年間稼働する。補助魔導エネルギー供給センターが作動してから活動を始めたのはこれね。『ゼノ・ゼロ』搭載機」「……そして、『ゼノ・ゼロ』っていうのは、これね。機密保持プロトコル『ゼノ・ゼロ』は技術流出を防ぐために魔導エネルギー供給センターが深刻な損傷を受けた時に発動。対応する魔導波を出す施設が壊れた時に自動的に発動する強制自壊・消滅プログラムね」

「「……でも、魔王だけは違う。奴は『ゼノ・ゼロ』の対象外よ。『ゼノ・ゼロ』禁止が何重にも強調されてるよ。よっぽど、自爆させたく無いのね。でも、魔導波が途絶えても人間の捕食によって永遠に生き永らえる設計なの。魔導波Ωになれば出力は四十五倍に跳ね上がるけど、魔導波がなくても……奴は止まらない。捕食さえ続ければね」


 焚火を囲んで

 思い思いの食料を口にし、互いの傷を癒やしながら、一行は自分たちが成し遂げたことの重さを噛み締めながら、今までのヴィルヘル(魔物 )について分かった事について、考え込んでいました。


「……あの日、センターを壊した瞬間に周りの魔物たちが居なくなったのは、『機密消去』プログラムだったんだな」  

 バハルが苦々しく笑いながら、大楯を磨きます。

「今まで、世界中の人々が苦しんでいた、ヴィルヘルの脅威っていうのは、人が作り出した軍事技術だったという事だ。」

 ライナスが、吐き捨てるように言います。

「私たちも権力とかお金あると、同じになる?」

「今なら、権力欲しいって言ったら、もらえそうだよね」

アルベローゼが言います。

「アルちゃん、みんなの顔を見なさい。そんなふうにみえる?それにそんなものは要らないわ」

エリカが笑います。

「そうだね。ディオン!私、権力いらないからね。そんな暇あるなら、私をかまいなさい!」

 ディオンは「ああ、分かってるよ。アル」と笑顔で答えます。

 ライナスが言いました。

「我々が権力など持つべきじゃない。英雄になり過ぎてしまった。ひっそりと消えるべきなのだ。」

 皆、それが当然だとばかりに頷きながら、それぞれが、戦いが終わってからの平和な生活に思いを馳せるのでした。

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