第32話
沈黙に包まれた『ヴォル・ヴィア・ラボラトール』(魔導生物兵器開発研究所)の深部。
アルベローゼらが供給センターを破壊したことで、かつて不気味な光を放っていたであろう製造装置はすべて機能を停止していました。
「動力が完全に死んでる。……奥の工場の方は何が眠っているかわからないから、近づかない方が賢明だね」
一行は、巨大な試験管が並ぶ工場区画を避け、管理棟の書庫へと向かいました。
魔導記録装置は沈黙していましたが、アルベローゼは書棚の奥から、物理障壁コーティングがなされたファイルを発見しました。
そこには、ディオンとエリカの人生を狂わせ、世界を滅ぼしかけた「魔王」の恐るべき正体が克明に記されていたのです。
アルベローゼは、父の形見を握りしめ、震える声でその内容を読み解きました。
個体名:アニマ=ゼロ
それは古代魔導エルフたちが作り上げた「霊体生物」でした。
完成すれば完全に人間に擬態し、不完全な場合は適正のある人間に「寄生」して魔力を吸い続けます。
目的:自我の乗っ取りと融合 最終目的は、宿主の自我を乗っ取り、肉体とアニマ=ゼロを融合させること。
それにより、病も老いも克服した「不老不死体」が完成します。
不老不死のメカニズム アニマ=ゼロには、あらかじめ保存された人間の心(記憶と人格)をダウンロードする機能がありました。
古代の支配層は、肉体が滅びる前に自分の精神をこれに移し替え、永遠に生き続ける計画だったのです。
供給と燃料 動力はすべて「魔導ルビー」により、供給センターから魔導波として発信しますので10万ライン(約10万km) の範囲で遠隔受信が可能です。
そしてその燃料は、すべて下級国民」から抽出された魔力。
治安維持用の魔導生物が人々を選別・捕獲し、最後の一滴まで命を絞り取っていたのです。
ファイルの最後には、不老不死化を待つ「上級国民」たちのリストが綴られていました。
それは、社会階級の優先順位に従って、自動的にダウンロードが実行される手はずになっていたのです。
【アニマ=ゼロ・精神転送待機リスト】
1. 第1204代大統領:ゼノス・フォン・アルカディア(上級国民番号:124732)
2. 軍事総合司令官:ヴァルカス・アイアンガード(上級国民番号:000005)
3. 最高法典執行官:レディ・イザベラ・ルナ(上級国民番号:000012)
4. 魔導技術院長:ドクター・ギルガメス(上級国民番号:000045)
5. 元老院議長:バルトス・エルダー(上級国民番号:000002)
6. 王立銀行総裁:ミダス・マネーワース(上級国民番号:000210)
7. 聖教典管理官:セレスティア・ピース(上級国民番号:000890)
「……この人たちの身勝手な欲望のために、あそこにいた何万という人たちが燃料にされたの……?」
エリカが激しい憤りに肩を震わせました。
「僕たちの中にいた『黒い影』は、このリストにいた大統領や司令官たちの、醜い生に対する執着そのものだったんだね」
ディオンはファイルを閉じ、聖剣の柄を強く握りしめました。
「10万ライン(10万キロ )……。聖都だからか、世界中にヴィルヘル(魔物 )が発生するわけだね。でも、アルベローゼとリニがセンターを止めた今、このリストにある亡霊たちが目覚めることは二度とない」
ライナスは静かに祈りを捧げ、父の形見を握りしめるアルベローゼを支えました。
バハルは吐き捨てるように言いました。
「不老不死だと? 他人の命を吸って生き長らえて、何が『上級』だ。……さあ行こうぜ、こんな腐った場所、もうおさらばだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます