第22話

 マリノ・ガルドからの飛空挺の空の旅を終え、一行は砂漠の魔導大国『サハラ・シュタール』へと到着しました。

 着陸、係留作業中、飛空挺艦長から、2カ国の親書が飛空挺発着所の係員に真っ先に渡されました。

 タラップを降りた一行を、三人の魔導将軍――赤のハルカン、青のイシル、そして影に潜む黒のガイル――が最敬礼で迎えます。

 王都への移動には、平和な市街地のみで運行される豪華な「魔導装甲列車」が用意されていました。

「わあ、すごい! 揺れもなくておとぎ話の魔法の舟に乗ってるみたい!」

とエリカがはしゃぎ、アルベローゼやリニもその快適さと美しい車窓の景色に目を輝かせます。

 そんな女性たちの無邪気な様子を、ディオンとライナスは微笑ましく見守りながら、これから始まる謁見に向け気を引き締めるのでした。

 バハルはなぜか辛そうです。

「うう あああ うう」


 列車は王宮へ滑り込み、一行は死期が近い老王(59歳)との謁見に臨みました。

 22年前に王妃を亡くした老王の傍らには18歳のアリステア、15歳のフェリス、13歳のセシリアという若き三兄妹が不安げに寄り添っていました。

 老王は、部屋から家臣たちを下がらせるとディオンたちにだけ聞こえる掠れた声で「本音」を吐露しました。

「……英雄殿、本当は今すぐにでも戦略級魔導武器をお主たちに託したい。だが、私が死ねば派閥争いが激化する。家臣たちを黙らせ、反対を封じるためには、誰にも文句を言わせぬ『実績』という建前が必要なのだ……。どうか、ミスリル鉱山を荒らす巨大ワームヨルムン・ガンドゥを討伐してくれまいか」


 ディオンたちは三将軍、そして魔法兵団と共に、一週間の行程を経て鉱山へ到着しました。

 直径5ガルイ(5メートル)、長さ200ガルイ(200メートル)を超える魔物は地中を高速で疾走する難敵でしたが、バハルが盾で正面から抑え込み、ライナスの回復とエリカの「落盤防止魔法」が戦線を支えます。

 ヨルムン・ガンドゥの頭周辺は金属質の分厚い装甲で覆われています。

 アルベローゼが「これを試したかったんだよねー。ウシシシ。」と言いながら、「それ」「はいっ」「もういっちょー」と楽しそうに矢を放ちます。

 矢はヨルムン・ガンドゥの頭部装甲に刺さったままですが、ヴヴヴヴヴと低い音が聞こえます。

 次々と、ヨルムン・ガンドゥの頭部装甲に亀裂が入り、粉を撒き散らしながら四散していきます。

 最後はバハルが動きを止めた刹那、リニが放った渾身の投擲が魔物をミスリル岩盤へ縫い付け、縦横に移動する五尾すべてを仕留める勝利を収めました。


 野営の夜、共に戦った将軍たちは、エリカとアルベローゼの詠唱に驚愕しました。 エリカが「アルベローゼ、あなたの詠唱、早すぎて今まで気が付かなかったけれど……よく聞くと規格外だわ!」と驚くと、アルベローゼは火を弄びながら笑いました。

「ああ、これ? 私は『古代魔導エルフ文字』をそのまま使ってるからね。今日使ったのは、『高振動魔導粉砕矢』すっごい可愛かったでしょ?すごい速度で震えながら微弱な魔力を叩きつけ続けるの。」

「今の魔導文字は使いやすく簡略化されて扱いやすいけど、世界のコトワリとか考えてないんだよね。古代文字は世界の原理に直接干渉できるから、魔力とか原理の調整もしやすいんだよ」

 横でアルベローゼのウンチクを聞いていたディオンとライナス。

 ディオンとライナスも、父から教わった魔法が実は「古代文字」の初級であったことに気がつきました。

「なんか、父さんから習った魔法は周りの人と違うと思ってたけど、まさか」

「兄さん」

 と、囁き合い、そして、その深淵さ(アルベローゼ)に戦慄を覚えるのでした。


 七日後、王都へ凱旋すると老王は既に息を引き取っていました。

 しかし、英雄が国難を救った実績を祝い、盛大な凱旋パーティーが執り行われました。

 会場では三兄妹は英雄たちと語らうために一時、大臣たちを遠ざけます。

彼らはディオン達に言いました。


「ディオン様、皆様。私たちは、この国を分けたくないのです。どうしたら良いでしょう。このままだと、姉上の暗殺計画や軍による蜂起が計画されているのです。」

 今、父王が死去したばかりだと言うのに、臣下達はそれぞれ三兄妹ごとに派閥を形成し、己の利権を得ようと暗躍し続けているのでした。

 ディオン、ライナスが自分達の両親の話を三兄妹にします。

 エリカ「意味は分かりますか?亡くなった父上様の意思が素晴らしいものであるのなら、その意思をしっかりと継いではどうでしょうか。」

 長男フェリスが言いました。

 「アリステア姉様が女王となり、僕が軍事と外政を、セシリアが財務と内政を司りましょう。三人で支え合えば、何も怖くありません」

「各大臣は、王権により私たち2人の配下に置きます。」

 三兄妹は強く頷き合います。

 フェリスは会場の中央へ進み、居並ぶ大臣や軍幹部たちへ向けて宣言しました。

「『王族法第四十五条』に基づき、継承者三名の意見は一致した! アリステア姉上を次期女王とする。異論のある者は、私が処罰する!」

 その瞬間、大臣も将軍達もほとんど全員が一斉に跪き、「「「我らが女王の意のままに!!」」」と唱和が轟き、新たな王権が確立されました。

 現状を憂いていた臣下は喜び、暗躍していた臣下はこの瞬間に諦めたのでした。


 女王即位の日、最高純度のミスリルと海龍素材を組み合わせた新装備が授与されました。

 そして、国の至宝が2つ下賜されました。

 ディオンには魔力の流れすら断ち切る片手剣ソル・レギウス。

 バハルには全てを拒む者と言われる大楯イージス・カノプス。

 そしてそれぞれミスリルとフルム・ハヴギュヴァの革で作られた装備が下賜されました。

 ディオンには軽鎧と小型の盾。

 バハルにはフルプレート鎧。

 リニにはミスリル製トライデントスピアと全身鎧。

 アルベローゼには回復効果を活かしたフルム・ハヴギュヴァ製革鎧。

 アルベローゼ、ライナス、エリカにはミスリル製螺旋の腕輪が贈られます。

 この腕輪は魔力を自動的に循環させて、自動的に魔力を練り上げてくれる魔法職なら垂涎の品です。

 しかし、アルベローゼだけは、差し出された腕輪をつけてからすぐに返却しました。

「やっぱり私はこれニガテだよー。ミスリルの増幅回路は便利だけど、私にとっては自然のままの魔力が一番なんだ。せっかくだけど、これはご遠慮するね」

 彼女はそう言って、いつものように屈託なく笑いました。


 離陸の日、港には全国民が集まったかと思えるほどの群衆が押し寄せ、地鳴りのような歓声が上がりました。


 英雄万歳 女王陛下万歳

 

三兄妹と三将軍に見送られ、飛空挺は再び聖都ルーン・ヴィークへと向けて、砂漠の空へ高く舞い上がりました。


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