零 3

「どうしよう…。」


思わず呟いた。退職が認められなかった今、俺達に打つ手はない。


「え?脱出すれば良くない?」


愛が無邪気に言った。なに言ってんだこいつ。


「あのなぁ。それができたら苦労はしねえよ。」


全く、こいつの能天気差には呆れる。


「でも、私、ジェット機持ってるよ?」


「はいはい、冗談はあとに…って、は?お前今なんつった?」


「だからぁ~私、ジェット機持ってるよって」


そう言うと愛は俺を訓練基地連れていった。


「ほら、これ。私のジェット機。名付けて勘太郎!」


愛は目の前の大きなジェット機を指差して言った。絶望的なネーミングセンスは置いておいて、こいつがこんなジェット機を所有しているとは驚いた。


「これで脱出しようよ☆」


そう、愛は言った。


「それができるなら今すぐしたい。だがな、こんなに大きなジェット機で脱出してもすぐに見つかるだろう。」


「大丈夫だよ、だって私ぃ、速度上げるのめちゃ得意だから☆」


「まあそれなら大丈夫か。」


俺はもうこいつを説得するのを諦めた。彼女のポテンシャルには勝てる気がしない。



次の月曜日、俺達はあのジェット機で軍から脱出することに決めた。愛に聞いてみた。脱出したあと、一体どうするのか、と。そうしたら彼女は、


「え?ジャーナリストになるよ。私、この戦争の全貌を暴きたいんだぁ~」


と答えた。


全く、どうして彼女はこんなに強いのだろうか。




月曜日が来た。俺達は全財産を持ってジェット機に乗り込んだ。


愛はエンジンをかけ、すぐに離陸した。


離陸から5分ほど経ったとき、やはり軍があとを追ってきた。


「さぁ~、本領発揮しちゃいますか~」


愛がそういった直後、機体はすごいスピードで進んでいった。


「待て待て待て!飛ばしすぎだ、愛!!!」


「言ったじゃん!私、速度上げるのめちゃ得意だって。ていうか、今初めて私の名前呼んでくれたよね!?超ぉ嬉しい~!」


「それどころじゃねぇぇ!!うああああ!!!!!?」


このあと10分くらいはこのままだった。できればもう二度とこんなことは経験したくない。


気がついたらもう軍は追ってきていなかった。愛は近くの空港にジェット機を着けて、このあとどこに行こうかと聞いてきた。幸い近くに俺の自宅があったので、そのまま自宅に行くことになった。


7年振りの我が家は、なんだかずいぶん古ぼけた感じがした。


「ここが零の家かぁ~」


「あんまじろじろ見んじゃねえよ。」


「いやぁ~、もしかしたら零のへそくりがあるかもしれないじゃん?」


「そうかそうか。俺は疲れたから寝るわ」


「そっかぁ。おやすみ!」


「ああ。」


最近改めて気づいた。人と話すのって楽しいことだ、と。

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