良いことばかりも良いけど
瀬滝二会
#1「突然、現れた謎の女」
今日、俺は、成人になった。
成人式は、とてもつまらなかった。一人で行って、知らないおっさんやおばさん、同世代の話を聞かされる。退屈すぎて、あくびが出そうだった。
終わっても、話す人間は、誰もいない。そりゃそうだよな。去年の11月、引っ越したばかりなんだから。
小学生、中学生の頃の友達もいない。なのに、おふくろからは、「新しい友達ができるかもよ」って押しに押され、家から出された。
時間を無駄にした。式典が終わった後、俺は、真っ直ぐ、帰宅した。楽しそうにお喋りやら写真撮影やらしている連中を通り過ぎて。
あーあ、イライラしてたら、頭、怠くなってきた。
家に帰ると、リビングから、掃除機の音が聞こえてきた。俺は、2階の自分の部屋へ直行。したいとこだが、まずは、手を洗いに洗面所へ行く。その間、掃除機の音が止み、足音が近づいてきた。
手を洗っていると、後ろから、おふくろが、掃除機を持って話しかけてきた。調子良さそうだ。
「おかえり、利郎(としろう)。お昼食べる?」
「いらない。」
「成人式、どうだった?」
「つまんなかった。」
無責任な質問に、俺は、無機質な返事をした。
手を洗った後、俺は、ジャケットを脱いで右腕で包ませ、ワイシャツのボタンを上からいくつか外しながら、洗面所を後にした。
「そっか。」
哀れむなよ、自分が「行け」と言った癖に。ケンカもめんどくさいから、そうは言わなかったけど、俺は、何も言わず、おふくろを通り過ぎた。
俺は、廊下に入り、その途中にある階段を上り、2階へ上がった。自分の部屋に入り、「新成人になったら読むシリーズ」やミネラルウォーターなどが入ったトートバッグを床にバンッと置き、ソファの上で寝込んだ。
天井を見ながら、俺は、式典で貰ったお土産を思い返す。そのうち、一人だから、思っていることを声に出すようになった。
「妊娠中絶ねえ。未婚化だの、カエル化だのあるっていうのに、今どき、そこまでの関係になる男女は、いないでしょう。ま、俺も、彼女作る気ねえし。ていうか、特典、しょぼくね?ほとんど市役所にありそうなパンフだし。一番高いのって、水ぐらいじゃね?マジでしょぼいわー。」
今日あった最悪な出来事を全て出し切ると、頭の怠さがなくなった。むしろ、心地いい気分。気持ち良すぎて、俺は、眠りについた。
ところが、何かが床に落ちる音が、俺の睡眠を邪魔した。
「チッ、まだ1時間も経ってねえのに。」
目を開けると、全身タイツの女がいた。俺は、とっさにソファの後ろに隠れた。
泥棒か?いや、あんな恰好してるから、変態だ。でも、玄関の鍵閉めたよな。
だけど、不審者であることは変わりない。俺は、ソファを力強く持ち上げた。
「これでもくらえ!」
俺は、ソファを女に投げつけた。しかし、女は避けた。動きは、アニメでよく見る瞬間移動そのものだった。避けた後、女は、アメリカのヒーローみたいに、左手の平から青い光線を出し、落下しようとしているソファに当てた。光線を受けると、ソファの動きが止まり、彼女に操られるがまま、ゆっくりと床に着地した。
こいつ、やべえやつだ。この後、絶対、殺される。近寄って来る女を、俺は、正座をし、拝み続けた。許してください、命だけは奪わないでくださいと。しかし、彼女は、思いもよらぬ一言を発する。
「今は、西暦何年ですか?」
「えっ?」
「今は、西暦何年でしょうか?」
「い、今は、2006年。」
「そうですか。ありがとうございます。」
無表情で、棒読みな喋り方。まるで、昔の特撮に出てくる宇宙人みたいだ。タイツの女は、窓を開け、家を出ようとした。
「いや、待て待て! なんだよ、あんた。いきなり、うちに来て。不法侵入だぞ!」
「ごめんなさい。到着したのがここでしたので。では。」
「いや、待て。なんだよ、到着って。ってか、誰あんた?」
「私は、2106年から参りました。ミキタカミユです。」
「2106年? 未来人かよ。バカバカしい。」
「なら、証拠を見せます。」
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