タイムウェザー

テイリル

第1話 空を見上げる

空を見上げる。

俺が生まれてから18年。その15歳の誕生日を過ぎた頃から、絶え間なく砂嵐が吹き続けている。

ビルが並ぶ街はもう明かりがついていない。

常に薄暗く、夜には極寒の寒さが肌を突き刺す。

このあたりは昔は人の往来が絶えず、道路は車が埋め尽くすオフィス街だったらしい。

だからこそここは被害が甚大だった。

今は、黒い風をまとうフィンドと(俺は呼んでいる)化け物が道路を真っ黒に埋め尽くしている。

俺はビルの一角の小さな会議室で生活をしている。

ここでは、そういう風に生活をしている奴らが大半だ。

「立てこもり犯出てきてください! あなたたちは包囲されている!」

外ではずっと元警察官らしきフィンドが叫んでいる。

俺たちをずっと立てこもり犯だと思っている。

「そろそろ帰りたいよ。入れてくれない?」

ラジオのノイズが入ったような声で10歳の友人のパルがバリケードを築いた向こう側でずっと問いかけている。

入れるつもりは毛頭ない。そいつはフィンドだ。

そいつとは仲が良かった。

でもここの生活にうんざりしていたのだろう。

そいつは夜中に飛び出し、自暴自棄と興味本位が入り交じり、フィンドに触れた。

止めようと思った。でももう遅かった。

「うああああ!怖い怖い怖い怖い!!!」

けたたましい叫び声をあげながら黒い風が体を瞬く間に炎のように覆いそいつはフィンドになった。

それ以来、このビルの中をうろついて、ここに入ってこようとする。

フィンドは生前の記憶を深く受け継ぎその記憶を頼りに行動する。

パルは、ただここに帰りたいだけのようだが、それはもう叶わない。

「カイ、そろそろ水が足りない。取ってきてくれないか?」

ここのリーダーの俺の3つ上のラルフが俺に命令する。

正直嫌だったが俺は二つ返事でOKした。

俺の友達だったパルの兄貴だ。弟がそうなってからあまり元気がない。

本当はもっと冗談を言い合うくらいに明るいヤツだったが。

俺は服を着込み、バリケードの反対の扉から非常用階段で一階まで降りる。

その間フィンドに触れないように最新の注意を払いながら、ビルのエントランスを抜け、大通りに出る。

周りを見回しながらそこのマンホールを素早く開け、中に入る。(結構臭う)

下水管の中を少し歩き、水や食料の売買所まで行く。

目的地に到着したが誰もいない。

少し早かったみたいだ。

しばらく待っていると、バイク音が聞こえてきた。

細い道を器用に進み、顔なじみのユウゴが目的地にたどり着く。

「いらっしゃい」

感情が載っていない接客をもらい、金品を差し出す。機械的に。

「ラルフはどうしてる?」

普段は必要なこと以外はあまり言わないユウゴが珍しく話しかける。

少し面食らいながら話し始める。

「ずっとあのままよ、特に変化なし」

ユウゴはそれを聞いてそうかとだけ相づちをうつ。

ユウゴは物資を渡したら、じゃあなと行って走り去った。

次の配達場所もあるのだろう。

この物資は政府の配給品だ。そもそも金品で支払わずとも、ある場所まで行けば無料で貰える。

でもそれをしないのはラルフがずっとあのままだからだ。弟のもとを離れたくないのだろう。

俺らは少し特殊ケースだが、ユウゴはそこまで行けない老人や子持ちの親を相手に配達をしている。

ユウゴに渡したあの金品は盗んできたものだ。

俺らのために配達するのに何もなしじゃ俺の立場がないからあげている。(最初は受け取らなかった)

俺は物資を抱えて戻る。




会議室に戻るとラルフが会話をしていた。

「パル、最近どうだ?飯食ってるか?」

「兄ちゃん帰りたいよ。開けて」

フィンドとは会話はできない。こっちの声は聞こえていないから。

「最近兄ちゃんな、料理が上手くなったんだよ。シチュに生クリームを入れると上手いんだ」

「兄ちゃん、もう悪いことしないから開けて」

「野菜の切り方も上手くなったんだ。玉ねぎは目に染みるから苦手だけどな」

「兄ちゃん、パルこれからいい子になるから」

「そうだなパル、お前はいい子だもんな。よくご飯をちゃんと食べてたもんな」

「兄ちゃんお願い開けて。開けて。開けて...」

俺はそんなラルフを見ていられなかった。

反対を向きながら飯を作る。(主に缶詰をカセットコンロで温めただけ)

ラルフが飯を作っているのに気づいて俺に近づいてくる。

「すまんな、飯できたのか」

「まあいいよ」

俺たちは温まった缶詰のシチュとカレーを食べ始める。(米は冷や飯をカセットコンロで温めただけ)

「こんな食事だが腹減ってると上手いな」

「こんな食事って...俺が作ったんだけど」

「すまん悪かった。パルにも食べさしてやりたいな...パル...」

ラルフは静かに泣き崩れてしまった。

心が壊れるのは悲惨な状況や身に降りかかる不幸からじゃない。

変わらない現状を痛感させられた時だ。

俺らはその後、黙って飯を食う。

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