中堅冒険者のおっさん、かれこれ10年クールで気高いエルフと冒険しているけどエルフ語が堪能なので超愛されていることがバレバレです
羽田遼亮
第1話 おっさんと森の妖精
俺の名はグレン、かれこれ20年近く冒険者をしているがC級とB級を行き来しているしがない中堅冒険者だ。
これといって特徴のない外見をしており、武器は使い古したバスタードソード、時折両手持ちで魔物を一刀両断したり、盾を構えて防御に徹したり、長年培った経験を活かし数々の修羅場をくぐり抜けてきた。
そんな俺であるが、今はパーティーではなく、
焚き火がパチパチと爆ぜる音が、静寂な夜の森に響いていた。
俺、グレイは、いつものように愛剣の手入れをしながら、向かいに座る相棒を盗み見た。
白銀の髪に、透き通るような青い瞳。エルフのシルフィード。
かれこれ10年、俺のような冴えないおっさんとパーティを組んでくれている、高潔な美女だ。
「……何を見ているのですか、グレイ」
視線に気づいた彼女が、氷点下の声でこちらを睨む。
「いや、火の加減を見てただけだよ」
「ふん。貴方はいつも注意散漫です。今日のゴブリン討伐でも、あわや背後を取られるところでしたよ。私の援護がなければ死んでいましたね」
彼女は共通語(人間語)で冷たくそう言い放つと、ふいっと顔を背けた。
長い耳がピクリと動き、彼女は焚き火に向かって独り言のように、しかし流暢なエルフ語でこう呟いた。
「(……ああもう! グレイったら、また私を見てた! その無精髭がワイルドで素敵! 背後を取られた時の驚いた顔も子犬みたいで可愛かったなぁ……守ってあげられてよかった! 私の旦那様にするんだから、傷一つつけさせないわよ!)」
……うん。
相変わらず、情報量が多い。そして愛が重い。
俺は必死にポーカーフェイスを維持しながら、軽く苦笑いを浮かべた。
彼女は知らないのだ。俺が、エルフ語を完璧に理解していることを。
「悪かったよ、シルフィード。助かった」
俺が共通語で礼を言うと、彼女はさらに不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「勘違いしないでください。契約だから守ったまでです。貴方のような鈍重な人間、放っておけばすぐ野垂れ死ぬでしょうから」
ツンとした態度で紅茶をすする彼女。
だが、その口元から漏れるエルフ語は、甘くとろけていた。
「(鈍重だなんて言ってごめんね! でも、貴方のそういう少し抜けてる所が、エルフ族の完璧主義にはない癒やしなの! 10年よ? もう10年も一緒にいるのに、なんでプロポーズしてくれないの? エルフの10年は人間の1年くらいの感覚だけど、私待てない! いっそ今夜、夜這いかけちゃおうかな!? 既成事実を作るべき!?)」
――ブッ!!
俺は手入れ中の油を吹き出しそうになった。
夜這いはやめてくれ。心臓が持たない。
「グレイ。汚いですね、品がありませんよ」
シルフィードが軽蔑の眼差しを向けてくる。
だが、その眼差しの奥にあるエルフ語の思考は……。
「(咳き込む姿もセクシー……! 背中さすってあげたい! 抱きしめたい! むしろその汚れた布になりたい!)」
「……いや、なんでもない。もう寝るよ」
これ以上起きていると、理性があるいは笑いが耐えきれない。
俺が毛布にくるまって背を向けると、背後から衣擦れの音と、小さなため息が聞こえた。
「……おやすみなさい。見張りの交代時間には起こしますから、さっさと泥のように眠りなさい」
冷徹な共通語。
そして、直後に聞こえた、耳元で囁くような極小のエルフ語。
「(……愛してるわ、グレイ。世界で一番。……100年先まで、ずっと私のそばにいてね)」
……これだから、おっさんは勘違いしそうになるんだ。
俺はエルフ語がわからないフリを続けながら、密かに赤くなった顔を毛布に押し付けた。
明日も、このツンデレ(通訳付き)な相棒との旅は続く。
――――――
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