彼女を寝取った男の義妹が俺の幼馴染だった

リラックス夢土

第1話



「ごめんね、冬馬とうま。私、広志ひろしと付き合うことにしたから冬馬とは別れるわ」


「は!? 広志と付き合うって広志って誰だよ!?」


「二か月前に合コンで知り合った人よ。神前寺かんぜんじ広志ひろしって言うの」



 彼女から別れ話をされたこともショックだったがその理由が俺という彼氏がいながら合コンに参加して知り合った男と付き合うからだと言われてさらにショックを受ける。



「広志は頭が良くて一流の大学に通っているの。それに比べて冬馬の大学は三流大学だもん。将来性を考えれば広志の方がいいってこと」



 彼女である真希まきの言葉を聞いて俺は何も言い返せない。



「それに合コンの後に広志と意気投合してホテル行っちゃったし」


「なっ!」



 まさか心変わりしただけでなく広志に彼女を寝取られていたとは。

 俺はショックが強過ぎて言葉を失う。



「そういうわけだからさ。冬馬とは今日でお終い。それじゃね」



 真希は言いたいことだけ言うとカフェを出て行く。

 しばらくショックを受けていた俺だが時間が経つにつれて真希と広志への怒りが湧いてくる。



 俺を馬鹿にしやがって!

 真希も広志という男も許せねえええぇぇーっ!!



 カフェを出ると外はいつの間にか冷たい雨が降っていた。

 傘を持っていないので仕方なく雨に濡れながら歩いているとさらに自分が惨めな気分になる。



 クソッ! なんで俺がこんな目に!



 横断歩道で立ち止まって冷たい雨に打たれていると、スッと俺の頭上に赤い傘が差し出された。



「雨に濡れると風邪引くよ」



 俺に傘を差しだしてくれたのは俺より少し年下の女の子。



「冬馬お兄ちゃん。私のこと覚えてる?」



 その女の子の顔と「冬馬お兄ちゃん」と呼ばれたことで俺は遠い過去の記憶を思い出す。



「もしかして杏奈あんなか?」


「当たり。冬馬お兄ちゃんの家の隣りに住んでいた杏奈だよ」



 杏奈はニコリと微笑む。

 その笑顔は冷たい雨で濡れねずみになった俺には天使のように思えた。


 杏奈は俺より三歳年下の幼馴染だった。

 いつも一緒に遊ぶ時に俺のことを「冬馬お兄ちゃん」と呼んでいたのだ。


 一人っ子の俺は杏奈にお兄ちゃんとして頼られることが喜びだったし杏奈のことが大好きだった。

 今思えばそれが俺の初恋だったのかもしれない。


 しかし杏奈の両親が離婚して杏奈は母親に連れられて引っ越してしまったのだ。



「どうしてここに杏奈が?」


「私の母親の再婚相手が転勤になってまた都内に引っ越して来たから今日は冬馬お兄ちゃんに会いたくてこれから冬馬お兄ちゃんの家に向かうところだったんだけど。何かあったの? 冬馬お兄ちゃん」


「あ、ああ、ちょっとな……」


「冬馬お兄ちゃんが苦しそうな顔をしていると私も苦しくなるよ。どうか冬馬お兄ちゃんを苦しめる原因を私に話して。妹みたいな私になら愚痴も言えるでしょ?」



 俺を元気づけるように笑顔を浮かべる杏奈に俺は救いの光を見つけたような気がした。



「それなら俺の家で俺の愚痴を聞いてくれるか? 杏奈」


「うん」



 杏奈を自宅に案内して俺は真希とのことを杏奈に話した。



「冬馬お兄ちゃんの怒りはもっともだよ。その真希って人と広志って人が許せないことも。……その、広志って人のフルネームは分かる?」


「えっと、確か、神前寺広志って真希は言ってたが」


「神前寺……珍しい苗字だね……とりあえず冬馬お兄ちゃんはそのことをもう忘れた方がいいよ。それよりまた冬馬お兄ちゃんの家に遊びに来てもいい?」


「ああ、杏奈ならいつでも大歓迎だよ」





 

 それから数か月経ち俺が自宅にいるとインターホンが鳴った。

 誰が来たのかとインターホンの画面を見るとそこにはやつれた姿の真希がいた。



 何の用事だ?



 無視することもできたが真希が何度もインターホンを鳴らすので俺は仕方なくインターホン越しに応対する。



「何の用事だ? 真希」


『冬馬! 私、冬馬の子供ができてたみたいなの! だから責任取って!』


「そんなわけないだろ! お前と別れてもう半年だし別れる前は真希が忙しいって言って三か月はヤッてなかったからな!」



 モニターに映る真希のお腹は九か月の妊婦とは思えない。



「どうせ、広志との子供なんだろうが! 広志に責任取ってもらえよ!」


『う、嘘付いたのは謝るから私を助けて、冬馬! 妊娠しているのは事実なの! でも広志と結婚したくないのよ! でも堕胎できる期間は過ぎちゃったし!』


「はァ? なんでだよ? 将来性のある男だったんじゃねえのか?」


『そ、それが、広志は大学の実験中に事故が起こって顔に大火傷おおやけどを負ったの! あんな化け物みたいな顔をした男と結婚したくないわ!』



 広志が実験中の事故で大火傷して化け物みたいな顔になっただと!?


 アハハハハッ!! ざまあじゃねえか!!



「顔が化け物でもその腹の子供の父親に間違いないならその化け物と結婚するんだな、真希。これ以上インターホンを鳴らしたら警察に通報するからな」


『ちょっと、待って……』



 俺はインターホンを切った。



 真希の奴は化け物の妻になりやがれ!

 それを望んだのはてめえじゃねえか!


 これ以上のざまあはねえぜ! アハハハハハハッッ!!






「ごめんね、杏奈。お母さん、二度も離婚することになって」


「平気よ、お母さん。私、あの広志って人を兄だと思えなかったから」


「それにしてもお母さんたちと離婚した次の日に広志くんも事故に合うなんて可哀そうだったわねえ」


「自業自得でしょ。だってあの人、自分の手柄にしようとして実験内容の資料を無断で自宅に持ち帰ってたらしいじゃない」


「そうねえ。あの事故もその時の資料を広志くんが一枚紛失しちゃって手順を間違えて起きた事故だったらしいし」


「それより私の苗字はお母さんが離婚したから元に戻ったのよね?」


「そうよ。手続きは済んだわ。杏奈はもう神前寺じゃないわよ」



 母親との会話を終えた杏奈は自分の部屋に戻る。

 そして一枚の紙を引き出しから取り出して家庭用シュレッダーに入れて粉々にする。



「私がお兄ちゃんと呼ぶのは冬馬お兄ちゃんだけなのよ。でもそろそろ冬馬お兄ちゃんのことも冬馬お兄ちゃんじゃなくて冬馬くんって呼びたいな。今度会ったら冬馬お兄ちゃんに告白しようっと。愛してるわ、冬馬お兄ちゃん、フフフッ」




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