コミック書評:『アイ スクリーム』(1000夜連続31夜目)

sue1000

『アイ スクリーム』

――コメディの皮をかぶった文化の再定義


『アイ スクリーム』は、大学応援団という看板をたった一人で背負う主人公を中心に、昭和の文化を現代的に再定義するコメディ漫画だ。


主人公・安田春人が憧れて入部した大学応援団、だが団員は自分ひとりで、そばにいるのは豪快なOBたちばかり。彼らは口を開けば精神論や武勇伝を語り、まるで時代から取り残されたように見える。だが本作は、そうした「古さ」に辟易するでも懐かしむでもなく、春人の眼を通して現代的な感覚で受け止め直している点に最大の特徴がある。


もうひとつの舞台となるのは、応援団が代々関わってきた老舗のアイスクリーム屋だ。店に立つのはすべて五十代以上のベテランで、主人公は彼らに混じってぎこちなく巨大ソフトを巻き、常連と会話を交わす。ここでも「古い店に若者が戸惑う」という構図にはならない。むしろ、彼らの仕事のリズムや空気を、現代の若者はどう体験しているのかという視点で再定義されていく。


この「再定義」という構造は、近年のシティポップ再評価と同一だ。シティポップは八〇年代の音楽をただ懐かしむのではなく、ストリーミングやSNSという現代の環境で「未体験の記憶」として受け止め直されている。そこには、過去と現在を区別せず、並列させて新しい価値を浮かび上がらせる試みがある。『アイ スクリーム』も同じように、昭和的な応援団や老舗の甘味処を、古いから尊いとか、古いからダメだと単純に判断するのではなく、現代的な視点で並び立たせ、その中から新しい光を見いだしている。


コメディとしても、ジェネレーションギャップによる笑いは一切用いておらず、それも作品に独特な空気感を与えている。無人のスタンドで叫び続ける主人公の姿も一見滑稽には映りつつも、同時に「自己の価値観を信じて行動する」という現代的で自然な自己表現の帰結だ。バイト先でのやりとりも、それは若者と古参のズレではなく、異なるスタイルが並列することで生まれる妙な調和の可笑しさを描いている。

恋愛模様も同様で、団服姿のままソフトクリームを巻く自分を好きな子に見られる気恥ずかしさは、おそらく昔も今も変わらない。この作品の隅々まで、時代を超える本質を捉え直そうとする試みが徹底されているのだ。


『アイ スクリーム』というタイトルは、アイスクリームと「I scream(私は叫ぶ)」を重ね合わせたものだ。安易な対概念を軽々と超えて、いまこの瞬間に存在する事象を現代の視点で再定義する姿勢はタイトルにも表れている。


読後に残るのは懐かしさではなかった。いま現在、生み出されている新しい価値への興奮だった。










というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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