コミック書評:『トーキョー・クアンタムス』(1000夜連続30夜目)
sue1000
『トーキョー・クアンタムス』
『トーキョー・クアンタムス』は、量子力学的な難解ワードをこれでもかと散りばめた能力者バトルマンガである。この作品で重要なのは、その用語の正しさではない。むしろ「口に出したくなる言葉」がちりばめられている設定こそが作品の真髄だ。
「無限次元複素ヒルベルト空間」「波動関数の収束」「虚数時間軸」——どれも意味は(おそらく)正しくない。ただ、とにかく呪文のように心を揺さぶる言葉のオンパレード。ページをめくるごとに押し寄せるこの語彙の洪水は、まさに“厨二病的なわくわく”を存分に味わわせてくれる。
舞台は現代日本。日常と地続きの世界に、二重人格を宿す能力者たち「クアンタムス」が主人公だ。彼らの人格が「コンバージェンス(収束)」するとき、日常と並行するパラレルワールド「無限次元複素ヒルベルト空間」へと切り替わる。その空間が格闘の舞台であル。バトルそのものは古典的な格闘マンガなのだが、戦闘を彩る「確率振幅」「超対称性粒子」といった言葉の数々がとにかくわくわくする。直感的に分かりやすい戦闘と「声に出して読みたい言葉」の組み合わせはいつの時代も最強だ。(五条悟の「無下限術式」がそれを証明しているだろう)
主人公の桐生ユウトは、普段は目立たぬ理系少年。しかしもう一つの人格「Ω」と収束すると、「量子跳躍」や「虚数ベクトル波」といった技を繰り出す。ライバルの一ノ瀬カイトは「確率」を操り、「ゼロ振幅領域」や「確定因果」など、言葉の魅力が技そのものの迫力を何倍にも増幅しているのが、この説明だけでも十分伝わるだろう。
敵キャラたちも負けてはいない。「シュレーディンガーの猫」「不確定重ね合わせ」「ディラックの虚海」「負エネルギー召喚」etc、次々に繰り出す技名は、なんのことだか全く分からない、がどれも魅力的だ。
作画面でも、戦闘のカメラワークが3D的に回り込み、キャラクターが粒子の残像に包まれていく。その瞬間に重ねられる専門用語が、まるで光の字幕のように画面に浮かび上がり、視覚と聴覚を同時に刺激する。理解よりも感覚、思考よりも身体、そこに漂うのは「説明できなくても、とにかくカッコいい」という純粋な快楽だ。
『トーキョー・クアンタムス』は、学問的な正確さではなく「厨二心」に振り切った作品である。言葉そのものが力を持ち、技やバトルを一層ドラマチックに見せる。少年マンガにおいては「口に出したい単語」こそが圧倒的な正義なのだ。読者は知識を身につける必要などなく、そして身に着けたつもりになって、心の中で何度もそれを繰り返せばいい。
理屈ではなく熱と響き——その単純かつ普遍的な喜びが見事に"収束"した少年マンガが誕生した。
というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。
コミック書評:『トーキョー・クアンタムス』(1000夜連続30夜目) sue1000 @sue1000
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