運に抗う者たち〜運転手になりませんか?〜
@pe-suke10
第1話
この世は実に不平等だ。
運良く合格するもの、運が悪く落ちるもの、運良く助かるもの、運が悪く亡くなるもの、 言ってしまえば、運良く裕福な家庭、運悪く福幸運のような家庭に生まれたもの。
この世は運がすべてだ。 なげいていた福幸運(ふっこう はこぶ)は1枚のチラシを見た。
「募集!運転手、私と一緒に幸せを運びませんか?」と書いてあった。 運が悪く仕事をクビになっていた福幸運はそのチラシに書いてある住所にいった。
これが、福幸運の運を転がす手を持つ人との出会いだった。
「運を移動させることができるということは、金運とかをのばせるってこと?」と福幸運はいった。とても俗人的なことだと思ったが聞きたかった。 御幸輪廻(みゆき りんね)は、あきれたようにため息をついて、「これで何回その話を聞いたのだろうか」
「なぜ人間は運というものを細分化し自分がいいようにしか感じ取れないのだろうか。金運?お金が手に入ることが何か福幸運の人生に影響を与えるのか?」
「それでは福幸運に問おう、金運というものが上がったとしよう、それで健康運が下がってもいいのか?」
「そういうわけではないだろう。金運が上がり健康運が下がれば運は均衡を保っているだろう?私たちがいっている運の不均衡というのは、各人間がもつべき運の総量が異なる状態のことだ。わかったか?」
「 各個人の運の総量か、むずかしいなー。」と福幸運はいったが、ふときづいた、運の絶対量は決まっていて、総量が不均衡ということは、福幸運がこれまで不運、不幸だったのは誰かに運を奪われていたからなのかと!
「そうだ!」と御幸輪廻は言った。
だから、福幸運のところにチラシをいれた。福幸運ならいい運転手になってくれるんじゃないかと思ってね。 「それでは、早速任務をしてくれるかい?」といわれた。
まずはこの荷物を届けてほしいと依頼された。
できる限りはやくしてほしいととても急がれた。 御幸輪廻は、荷物の相手先の運の状態がわかるようだった。 福幸運には運の状態がわからず、「バランスをどうやってみればいいんだ」ときいた。 「あ、このメガネをつかうといい。つけるとその人の運の値がみえる。普通の人の運の総量が100だ。それになるように調整してほしい。」 そう言われて、福幸運はトラックにのった。 どれどれ、僕の運の総量は、とルームミラーでみてみると70だった。なんかとても悲しくなった。
そして1個目の宛先をみてみると、大学時代の恩師の家だった。 卒業以来だったので会えるのを楽しみだなと思った。 恩師の家の前についたとき別のトラックが止まっていた。 そのトラックには「運葬屋」とかいてあった。 「運送屋」の間違いじゃないのか、と福幸運はそのトラックが家から離れるまで待っていた。 そのトラックが出たので、福幸運が恩師の家にいった。
玄関のチャイムを鳴らすと、すこし歳を取った恩師が段ボールを持っていた。
「おー、久しぶりだな福幸運。宅配の仕事を始めたのか?」といって「ちょっと待ってなさい、この荷物を置いてくるから」といったその時、福幸運は目を疑った。 運の総量が0だったからだ。 おかしいなぁ?と思ってメガネを外した瞬間、段ボールで足元がみえなかったのか、玄関の段差に躓いた恩師が、下駄箱の角に頭をぶつけて動かなくなっていた。 その現状に呆然としていた福幸運は、なぜか警察・救急ではなく、御幸輪廻に電話をしていた。
そうすると、現状を説明してないのに、「とりあえず帰ってこい」と言われた。 事務所に帰ると「間に合わなかったか」と悲しんでいた。 彼の運が、「バランスが」といっていた。 福幸運は、メガネでみたら運の総量が0になっていたと御幸輪廻に伝えると…。
「0だと!ありえない!もしかしてアイツらが」と御幸輪廻がいうと、 福幸運が「いや、福幸運が恩師がもっていた段ボールを代わりに持ってあげれば」というと、 「段ボールをもっていたのか?もしかして『運葬屋』ってトラックがいたのか?」と御幸輪廻が声を上げていった。 「あ、福幸運が行く前にそのトラックが止まってたんだ、『運送屋』の漢字間違いだと思って笑いそうになったんだけどね」というと…。 「あいつらが…」と御幸輪廻が言った。 「知っているのか?」と問うと、 「あいつらは俺達と異なるやつだ、福幸運達は『ラックバランサー』不均衡をなくすためにうごいている。 しかし、不均衡をなくすと困るやつがいる。 だから『運葬屋』っていうやつらが動く。あいつらは『ラックブレーカー』といって、他人の運をすべて奪う。 そして運を全部奪われた人は…生きていくことができない。」 「ラックブレーカーに復讐をしたいか?」と問うてきた。 「はい」といった福幸運に、 「それならもうクビだな。」 「他者の運の結果でクビをするのは初めてだ。これまでは他者の運のバランスを整えるといいながら、自分の運を高めすぎたものや、運のバランスを整えることで他者の運意図的にさげ利益を得たものなどいたが、他者への復讐で、運転手をやめたのは初めてだ」と御幸輪廻は言った。 復讐という言葉に福幸運は、過去の自分の記憶を辿った。
「復讐して何のためになるのか?人を恨んでなんのためになるのか?他者を憎むのではなく、他者を認めなさい。人は誰もがちがう、だからこそ、生きてて面白い。」 この考え方を教えてくれたのは恩師だった。 「不均衡でも、差があるのもよくない」と福幸運はいった。 「偽善者なんだな、福幸運は」と冷たい言葉を御幸輪廻はつきつけた。 「偽善と言われてもいい」と福幸運はいった。「早く次の荷物をくれ」と御幸輪廻を問い詰めた。 「じゃあこれを届けてくれ」と言って渡したものは、10年来連絡を取ってなかった幼馴染のものだった。
幼馴染のところへ向かって運転するトラックのなかで、10年前の大学の合否判定の日のときの会話を思い出した。 「大丈夫、一緒にいっぱい勉強したから大丈夫だよ」って彼女はいってたっけ。 そして合格発表で福幸運の番号がなくて、彼女の番号だけあったのをみて、「お前は運が良くていいな」って吐き捨てて、それ以降はなしてなかったんだっけ…。 そして、大学に入ってからも彼女からの電話やメールには何の反応もしてなかったっけ、と過去を思い出しながら運転していた。 ふと現実にもどって景色を見ていると、高校時代の彼女の家に向かう景色とは異なっていた。 あー、結婚でもして幸せな生活を送ったんだろう、と思って名前を見てみると高校時代の名前から変わっていない。そのまま進んでいくと、なんと表現したらいいんだろうか、まるで三匹の子豚が作ったようなボロボロの家がみえてきた。 えっ?ここに彼女が?そんなわけないと思いながらもインターホンみたいな鐘を鳴らした。
「あ、はーい」と聞き覚えのある声が聞こえた。 「あ、荷物を持ってきてくれたんですね。ちょっと待ってください、印鑑持ってくるんで」といった。 メガネを付けているから、幼馴染の福幸運と気が付かなかったみたいだ。 「じゃあ荷物を下ろしてきますね」と幼馴染に声を掛けて、幼馴染が印鑑を取りに行こうとするのを止め、たまらず福幸運は、「此処に住んで長いんですか?」と荷物に関係のない話をした。 「あ、そうなんですよ。かれこれ10年前ですかね…。大学の合格発表で運を全部使い切ったのか、運葬屋さんがもってきた合格通知うけとってから、いいことがなくて。 幼馴染に合格発表のときに言われたんですよ。『お前は運がいいな』って…。その時何も言葉を返せなくて…。こんな状況になって、アイツ(福幸運)がいった言葉の辛さがわかって何度も連絡したんだけど全然連絡がつかなくて10年経ってしまったんですよ」と悲しそうに伝えてきた。 「あ、荷物を届けてくれた方に話す内容ではなかったですよね、ここに印鑑は押して言いですか?」といった。 その時、幼馴染の運の値は0になりそうだった。 福幸運は、「印鑑なんていいんで、荷物を受け取ってください」と、急かした。 「あ、はい」といって荷物をつかんだ。 福幸運は、「なんでアイツ(幼馴染)に運が良くていいなって言ったんだ」「運葬屋がなんでこいつの合格通知を運んだんだ」「なんでアイツからの電話をでなかったんだ」「なんで自分だけが不幸だなんて思ったんだ」と後悔の念に駆られ、幼馴染を助けたくて、ラックバランサーとして初めての運の移動をやった。 「ありがとうございました。」といって幼馴染の家をでた。 「さっきの配達員さん、幼馴染の福幸運に声も似てたな」といって、届けられた箱をあけると宿舎付きの就職の内定がとどいていた。
トラックに戻った福幸運は、「ふー、ラックバランサーとしての仕事ができたな、これでアイツは大丈夫かな」と思いトラックにエンジンをかけて運転を始めた。 ふとバックミラーをみると福幸運の運の総量が0になっていた。 そのとき、急に飛び出してきた車に接触しそうになり、ハンドルを切った福幸運はガードレールをつきやぶり、崖からおちた。
「はぁー、やはりこいつはラックバランサーにはなれず、ラックギフトになってしまったのか」と崖の下に落ちたトラックの横で御幸輪廻は言った。
「でも、なんて幸せそうな顔してるんだ、こいつは」と悲しそうな声で呟いた。 「あー、また運転手を募集しなくちゃいけないな。」と御幸輪廻は言った。 「まさかラックギフトになるとはな。これまで自分のためにラックブレーカー、ラックバランサーといって人から運を奪うやつだけしかいなかったからな。」 「安らかに眠れ、ラックギフト、いや福幸運。」
福幸運‐ラックギフト編 完
運に抗う者たち〜運転手になりませんか?〜 @pe-suke10
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