ー猫探偵事務所猫野ぶちおの恋ー

@ohiroenpachi8096

ー猫探偵事務所猫野ぶちおの恋ー

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プロローグ



メーテルとは、漫画またはアニメ「銀河鉄道999」の登場人物だ。

機械の体をタダでくれるという星を目指す鉄郎とともに、銀河鉄道999で旅する正体不明の美女である。




彼女は基本、無口である。 そのたたずまいは、憂いに満ちている。


彼女は、優しい声をしている。 すべてを包み込んでくれるようだ。


彼女が笑うときは、瞳は気品で満ちている。 そして右手をそっと口元にやる。


彼女が瞳を閉じて、なにか考えごとをしているときは、爪をかむ癖がある。 その姿が僕には一番チャーミングだ。


彼女が泣くときは、目尻からそっと優しい涙を落とす。


彼女が迷っているときは、瞳を左右に大きく動かす。


彼女は酔うと、饒舌になる。 それは、これから楽しい時間がやって来ることを約束してくれる。


彼女が話しかけてくるときは、その瞳にいくつもの銀河をしまってあるような気になる。


彼女が怒っているときは、つめたい瞳をしている。 だれにも妥協しない。




暇なので、事務所の階下にある喫茶白熊で、「銀河鉄道999」をタブレットで見ているぶちお。


「メーテルかあ。オレの前に現れないかな。 一瞬で恋に落ちるな」


「なにバカなこといってるのよ、はい、アイスコーヒーね」


「いや、最近暇なんで、999をHuluで見てるんやけど、これがまた面白いというか、大人でも楽しめて奥が深いんだ、これが。心に刺さるね」


「ホントに暇ね」


「ガンダムより面白ね、絶対」


「あ、そう」




エピソード1


「それでね、知り合いの知り合いからのお話なの、この子なんだけどぶちおさんにどうかな、と思ってね。あんたもいい加減結婚しないと、ね。 もう年齢的に崖っぷちなのよ。 わかってんの」


「おばさん、オレはいいよ。べつにムリに結婚しなくても・・・するときはするよ。 それでいいやろ」


「そう言っていられるのも、あと2、3年よ。あんたの賞味期限はあっという間にやって来るわよ」


しかたない、写真だけでも見てあげるか。


「見るだけやぞ、見るだけ」


「そうお、まぁ、このひとよ、このひと」


「あ! メーテル!」


「そうよ、こちらは目輝ひとみさんよ」


「会う!」




エピソード2


目輝ひとみとお見合いをすることになった。


日差しが眩しい初夏の山銀は、明るい未来を予期しているようで、ホテル日航1F喫茶コーナーのピアノは踊るように華やかである。


こんなに緊張するのは久々だ。 アメリカンをすすると、これまで経験したお見合いが走馬灯のように脳裏に浮かぶ。 それは、何ひとつよい思い出はない。 断ったり、断られたり・・・どちらにしても傷つくことがほとんどだ。 とくにお見合いの1stは第1印象が重要だ。 ゲームみたいなものだろう、素の自分をどこまで見せられるか。 それとも隠すのか。 シュミレーションゲームのようなものだ。 どのカードをいつ切るか考えるのだ。



「猫野さん、お待たせしてしまって」


「いえ、いえ、目輝さん。この度はお受けしていただいてありがとうございます。 これが甥のぶちおです」


オレを突っつき、立たせて、百中錬磨の叔母が言う。


「はい、自己紹介しなさいよ」

小声で催促してくる。


「あ、え、猫野ぶちおと申します。本日はこの席を受けてくださりましてありがとうございます」



「こちらこそ、ありがとうございます。まあ、パリッ? としたお方で。 わたしは、猫宮と申します。 こちらは姪の目輝ひとみです」


「あの、目輝ひとみです。よろしくお願いします・・・」


彼女は小声で遠慮がちにに挨拶した。


オレたちは、はじめて瞳と瞳を合わせた。


「・・・・・!」



目輝・・・・・このひとはメーテルだ!


その憂いを含んで遠慮がちに話すその瞳は、メーテルそのものだった


その瞳を受け止めるのは、オレ、鉄郎だ。


オレたちは、銀河鉄道のおなじ列車に乗りターミナル駅まで旅するのだ。


つまり、彼女へ落ちたのだ。


我ながら、なんてちょろい存在だと思うが、こうなってしまったものは仕方がない、次に切るカードなど・・と考える余裕はなかった。




エピソード3


威風堂々な姿を見せようと乗り込んだ、このお見合いだが、その意気込みは、もはやなく昨日Huluで観た映画999のメーテルの姿だけが頭をよぎる。

なにを聞かれたのか聞いたのか、わからなかった。

メーテルに嫌われないようにしないと、と必死だった。

 


「ぶちおさん、ぶちおさん、ご職業の方はなにを」


「あ、はい。私立・・・」


そうだった、職業については「探偵なんて絶対に言わないこと」と諭され、「とりあえず、なんでも屋にしときなさい。まったく嘘じゃないからね」と釘をさされていたのだ。 どちらも同じようなもんたが・・。


「しょ、職業はぁ・・なんでも屋をぉ・・営んでおりますう!」


さぞ赤っ面をしていたのか、彼女は上品に笑った。



そのときの彼女の瞳は気品で満ちていて、そして右手をそっと口元にやった。



メーテルだ!



「わたしは、保険会社で電話オペレーターをしています」


「なんでも屋さんってなにをするのですか?」


「そうででぇすう~ね。犬の散歩、子猫や子犬の遊び相手。 ご老人の話相手、熱帯魚の餌やりとか、庭の草むしり、最近ではウーバーイーツが多いです」


「うふ、ふ、そんなんですね」


彼女がふんわりと笑う。



あぁ、メーテル。 そしてオレは鉄郎。


2人でターミナル駅まで999で旅をしよう!



「まあね、ふたりともいい大人なんだし、わたしたちは、席を替えてお話でもいたしましょうかね」


「そうね。じや、ふたりともよろしくね」




エピソード4


舞いあがってしまって、こんなときどういうふうに振る舞えばよいか・・・。

これでもそれなりにでも修羅場をいくつか切り抜けているつもりだ。 しっかりせい!


「ぶちおさんは、おいくつです?わたしは、33です。 少し? 行き遅れてますね・・」


「はい、わたしは38になります!わたしも行き遅れています!」


なにを言っているんだ!


「ふ、ふ、ふ。ぶちおさん。あんまり気を使わないで。この場を楽しみましょ」


そうだ。そうだよ。なにもオレばかりがいきり立たなくても、メーテルにもお任せすればいいときだってあるんだよな。


そう考えると緊張が解けた。


「保険のオペレーターですか、大変でしょ?いろんな人から電話が来て。なかには長々とクレームする人もいるだろうし」


「そうなんです。応対をパターン化しようとしても、とてもムリなんです。だから最初のうちは泣いちゃうくらい大変で。でも何年かするとね、自然となにを言われてもうまくまわるようになった。そんなことってありませんか」


「経験というやつですか。ありますね。身の危険を感じることもあるけど、いまでは何も考えないで体が動きますね」


いかん、つい口が滑った・・・でも、さっき知り合ったばかりなのに、彼女にはすべてのことを話ししてもよい。

気になる。


「身の危険ですか?なんでも屋さんて大変なんてすね」


彼女が笑っている。瞳は気品で満ちている。そして右手はそっと口元にある。




「そしたら、良い天気だし、少し外を散歩しましょか」


「はい」


いまはじめて彼女の容姿を認識した。彼女はスレンダーで、喪服っぽいファーポンチョをまとって、ふわふわな毛をしており、尻尾は細くて長い。片手にロシア帽子をもっている。そして目は黄色で、蒼い瞳をしている。


メーテルを意識しているのだろうか?

今度聞いてみよう。ぜったいに違いない。目輝ひとみなんだから。


ん、今度?あるのか。でもオレは決めた!


その後、和やかに会話は弾んだと思うが・・・。





第5話


「今日も、詐欺事件がありました。金沢市内の40代の男性が、ロマンス詐欺で2000万の被害にあったそうです。 

これで、県内での今年の詐欺発生件数と被害額は28件、5億8 千万円となりました

皆さん、お金を振り込んだり、渡す前にはよく考えてください、またまわりにそういう方がいらしたら声をかけてあげてください

くれぐれもお願いします。ニュース加能でした」




あいつからの着信だ。だいたいあいつから連絡をよこすのは、いいことがあったときだ。今日はなんの話につきあわされるたろうか。


「おい、ぶちお!久しぶりやな。元気か?仕事はどうだ?」


「寅吉か。なんかようか。オレは、so‐so だよ」


とても、お見合いをしたなんて言えない。返事は5日後の日曜日だからだしな、もし駄目だったら、なにを言われるかわからん。言うとしても日曜日がおわってからだ・・・。


「オレさぁ、彼女ができちゃったかも~」


「はぁ?!どこで知りあったんだ」


「インターネットの交流サイトなんだぁ。高い入金払ってよかったよー」


「それはよかったな。じゃ切るぞ」


馬鹿らしい。


「まあ、まあ、待てや。どんな子か聞きたいやろ」


「わかったよ。どんな子ですか?」


「まあまあ、慌てるな。」


いちいち焦らすな!


「それがな、オレに不釣り合いなほどかわいくて、かわいくてなあ、年も28なんやぞ!♪」


「あ、そう。そんじゃな切るぞ。お幸せに」


プチ

 


てんてんこんてんてん・・!


「なんや」


「それでなあ、彼女、歯科助手なんや〜」


「はい、はい、お幸せに」



まったく能天気なやつ。オレはああいうふうににはならん!





第6話


なんか、この日曜日はもっと焦れったく感じるだろうと、朝から思っていたが、意外とあっさりと叔母からの電話を取った。


「ぶちおさん、短く言うわね。向こうもokだそうよ。よかったわね。でも気を緩めちゃだめよ。これからよ、これから。わかった?」


「あぁ、わかったよ」


「じゃあ、つぎはいつ会うか決めて連絡をちょうだい」


「あぁ、わかったよ」



よし!うふふ。


どうだ、絶対にオレの方がシアワセだぞ、寅吉!


さてと、メーテルとどこで会おう?


暇だからいつでもいいが、彼女の休日は何曜日なんだろうか?土日?それとも平日?とくに決まっていない?


はて、


はて、お互い直接連絡を取れるようになるのは、いつからなんだろうか。あと1回、あと3回?





第7話


和食だな。落ち着いた所がいい。魚もあるし。店は・・・ここだ。日曜日の18時に待ち合わせ。それでどーかな。日曜日は休みかな。


「てん、てこてんてんとこことてーん」


非通知だ。


「はい、もしもし」


「あの・・・目輝ひとみです」


「こ、こんばんは。どうなさいました」

もしかして断りの電話?えー??


「あの叔母にお願いして、ぶちおさんの番号をそちらの叔母様に教えてもらいました。あの・・・わたし、土日が休みなんです。それをお伝えしたくて。ぶちおさんは日曜日の都合はよいですか」


「ちょうど今、つぎはどうしようかなと考えていたところでして。日曜日、大丈夫です!仕事はいまのところありません!それで、つぎの日曜日なんですが、和食はいかがです。場所はさんま亭なんか」


すかさず返事をくれた!


「はい、行きたかったところです」


「それじゃ。18時に店の前で。予約をしておきますね」


「はい。お願いします」


「はい。お願いします。じゃ」


「あの・・・もう少しお話しませんか」




はっ!想定外の切り返し!!


「はい、もちろん」




第8話


またあいつか。なんだよ。しつこいな。おまえの自慢話は、もういいよ。


「ぶちお!彼女が連絡してきて、和食のお店にいきたいとリクエストがあったんだけど、どっか良いとこ知らんか?」  


「かつお亭だ。それでいいやろ。時期的に旬でたたきが旨い、いいか?じゃ切るぞ」


シアワセなやつだ。振られろ・・・。

おまえに負けん。




第9話



メタボに言われるとは、幸福がにじみ出ているらしい。


「ぶちおさん、なんか最近余裕してますね?デカい仕事でもあるんですか?それなら声をかけてくださいよ」


「・・・・・」

「暇探偵さん。どうしたのよ。最近余裕がにじみ出てるじゃないの」


「・・・・・」


「助手くん、なにか知ってんの?」


「わかりません。仕事は増えてないんですけどね」


「ハンバーガーとポテト、コーラね。みぃちゃんさん」




第11話


なんだよ、またあいつか。


「ふちお、オレだ。オレさ、彼女とメールアドレスの交換したよ!こんなのはじめてやわ」


勝手にやれ!


「あーわかった、わかった。よかったな。じゃ切るぞ」


 

そして、お待ちかねの日曜日。この日のためにアオキで新調した黒っぽいスーツと渋めのネクタイで臨んでみた。まあ、こんなもんだろ。


「ぶちおさん、お待たせしましたか?」


彼女の今夜の服装は、お見合いのときとおなじ喪服のようなシックなファーポンチョを着て、ロシア帽子を頭に被っている

シックに着こなしている。さらに右手の薬指には高価で間違いない指輪をはめている。

耳には、これもそれらしきピアスが光っている

よくわかんないが、なんてきれいなんだろ


それに比べ、アオキのオレなんて彼女とは不釣り合いなんだろうか・・・


凹んでいてもしょうがない。


つぎ行こう、つぎ。



「へぇーこうなっているんですね。こういう場所には縁がなくて。面白いです」


「そうですか?それなら選んでよかったですよ」


「あ、お酒飲みます?」


「はい、少しなら。ビールを」


「わかりましたよ。すみません。ビールコップを2つ」


突き出しの枝豆とアサヒがやってきたので、それで乾杯。


「どれを注文すれば、いいんですか?要領えなくて・・・」


「ああ、お任せください。嫌いなものはあります?」


「なんでも大丈夫です。猫ですから魚は大好きですよ」


彼女の瞳は嬉しそうに大きくなって、そして右手を口元にやっている!


「そしたら、いくつか注文しますね」


「えーと、刺し身盛合せを2人前と焼きさんま2匹、あとカツオのたたきをひとつお願いします」


「えーと・・・・・」


迷っている彼女は、瞳を大きく左右に動かしている


「慌てんでもいいしね。おいおい頼んど行けばいいよ」


「ありがとう。お料理が楽しみです」


彼女はお酒が苦手で、すぐに顔を赤らめた。「いけない」と思ったらしく、あまり飲まないように自重していることがわかった。でも、饒舌になっている。


「ぶちおさーん、わたし、日ハムが好きなんです。どごかファンのとこってありますか?」


「そうやね、中日かなぁ。いちおう沢銀は準地元やから。野球は好きですよ。「かなり」がつくくらい」


「じゃ、今度キャッチボールしてくださいよ。わたしの夢は、日ハムの始球式で新庄監督を相手に投げたいんです。でも、笑われるだけで、誰も相手してくれなくて」


「お安い御用」


「絶対に!ですよ」


「はいっ」



彼女は酔うと、饒舌になる。それは楽しい時間がやって来ることを約束してくれる。


という、言葉がオレのメーテル言葉集に加わった。



「あのさ・・・メーテルって呼んでもいいかな」


「メーテル? 」

瞳が左右に揺れる。


「んー、いいわよ。というか、名字が目輝でしょ。だから同級生とかからは、メーテルって。最初はなんだろう?って思ったけども、調べたら「999」っていうアニメで、メーテルっていう美女がでてくることがわかってね。ちょっとわたしとは世代が上だけど、なんかうれしかったから、自分でも勘違いして、服装とかまねるようになったのーどう似合っている?」


やった!


「へぇ~どうりで。もちろん似合ってる!」




「じゃ、メーテルまた連絡するよ」

さっき電話番号を教えてもらった


「はい、お願いします」





第12話


てんてんてんこんてんてんたん!


またおまえか、寅吉。


「はい、寅吉か。今度はどうした」


「ぶちお~キスしちゃった!どうしよう」


だから?


「それはよかったな」


「それでな。聞きたい?」


「いやべつに」


「まあ、聞いてくれ」


「・・・・・」


「あのな、波川のチューリップまつりにドライブがてら行った」


「寅吉さん、運転うまいのね。音楽も趣味がいいわ。あなたとどこまでも行けそうな気がする。そう思わない?

素敵なパートナーになれると思うの」


えーっ、ちょっと待ってや、そこまで考えてる?って思っちゃったよなー笑。


「オレも、も、も、そあ、思いますぅ」


「わたし、あなたのことが・・・」


「っていう感じになっちゃってな、誰もいなくなった黄昏時のチューリップ畑でな、こー、こー」


「わかった、わかった。おめでとう!じゃ、切るぞ」


「待て待て、それでな。おまえの意見が聞きたい」


「なんだよ」


「オレな、つぎに会うときにな・・・ぷ、ぷ、プロポーズしようかと思っとる。どう思う?まだはやいか?」


「あーそんなの本能のなすがまま!でないか。そんな早い遅いの問題でもないやろ」


「そ、そうか!あんやと」


プープープー


なんだよ、めでたいやつだ。勝手にやってろ。それにしても、とても都合の良い話やな。夢のような感じだな。





第13話


木曜日のスタバ、暖かくなってきたカフェテラスでお茶をしている猫2匹。彼女の服は一年中同じらしく夏用、秋用、冬用とかで分けているそうだ。そこまでのこだわりがあんるか・・。


「あ、いま馬鹿馬鹿馬鹿しいって思った?」


「いや、なんというかこだわりが強いな」と。


「そうね、999を読んで、映画もHuluで観たけどね。大人こそ観るべき作品と知ってね、メーテルに憧れたのよ。目輝だし笑、ちょうどいいやって。全部メーテルのまねよ。ただのコスプレじゃないのよ、これ」


「うふ、ふ、」と右手を口元にやる。こないだの饒舌なときの彼女もコケティッシュでよかったけれども、ふだんのときはとても上品だな。なんか魔女的なものを感じるかな。



プラスチック容器にわずかに残っているあまいコーヒーを、ずずっとフィニッシュ!してしまった。


「メーテル、少し謝りたいことがあるんだ・・」


「なに?まじめな顔をして」


「オレ、なんでも屋って言ってたけどな、探偵です。やっていることはほとんど変わらんけど。違うことがあって、メーテルには言うけれど。警察の手伝いをすることがあります。危険なこともあります」


「そう」

彼女瞳を閉じて、なにか考えごとをしているときは、爪をかむ癖がある。その姿が僕には一番チャーミングだ。


「でもね、言ってくれてありがとう。先延ばし先延ばしするとね、なんか裏切られたみたいな気持ちがどこかに・・・」


「わたしもね、保険のオペレーターと言ったけど、正社員ではないの。ただのパート。責任はないし、とらないの。そういう感じなの」


「そっか、これでいいよな。これでスッキリしたね」


「そうね・・・・・」


「どうした?元気ないけど」


「ん、ん、ん、いいえ。これがいつもの私でしょ」


そうだった、基本無口で憂いをまとっている。


「警察の手伝いってそんなに危険なの?」




第14話


てけてけてんてんてん


「はい」


「ぶちお。彼女に結婚申し込んだ。そしたらな、もう少し待って。心の整理がついたら、大丈夫、わたしの心は決まっているもの」

だってさ。これでオレも結婚できる!さらば独身。おまえより先だな、ぶちお!は、は、は、は」


「おめでとう!」


プチ


せいせいするな。これで電話も減るだろう。ちっ!




そうだな、あいつにあやかってメーテルをドライブにでも誘おうか。山緑郷ホワイトロードなんか新緑を迎えて心も洗われそうだな。クルマは、持っているのは仕事用の軽トラしかないので、白熊ちゃんの愛車でも借りよう。


「メーテル?どうかした?」


「う、う、うん、ちょっと気分が悪くて。ぶちおさんなにか?」


「いや、今度の日曜日にドライブでもどうかな」


「行きますよ。何処に行きますか?」


「山緑郷ホワイトロード」


「いいですね、新緑に心が洗われそう」


「へ、へ、おなじこと考えた。「新緑に心が洗われそう」」




このころから自然と、このスタバで会うことが多くなってきた。





第15話


その日のクルマを借りるために、階段を降り白熊に入って、いつもの席でなく手前の席に座って、白熊ちゃんの手が空くのを待っている。


「あら、暇探偵さん。珍しいわね。そんな席に座って。なにかマスターに用?」


「そう。ちょっと頼みごとがあって・・」

 

「最近来ないことが多いけど、どうしたの?仕事は相変わらず・・と助手くんが言ってたし」

 

「ま、オレもいろいろあるんだよ」


「もしかして、彼女が?!」


「な、なんだよ」



 

「ぶちおくん、何?」


「白熊ちゃん、今度の日曜日クルマを貸してください。お願いします」


「あぁ、いいよ。自由に使ってちょうだい・・・あらっ、その日は、車検からまだ帰ってきてないや。ごめん。オレのはふつうのと違って時間かかるから」


「いいよ、いいよ、ほか当たるから」

どんなクルマだ?天皇のお車か?あり得る・・


「あらー幸先悪いわ」


「じゃあ、オレの使ってください。若者向きのやつですけどね」


おまえ、クルマ持ってたのか?!けっこうブルジョワ?


「マックセットを10セットおごるから!若者向きって、シャコタンかなにか?」


「なに言ってるんですか、ちゃんと車検とおりますよ」


メタボのクルマは、ホンダの軽オープンカーだった。これはいい!開放感がある!小さくて低いから、ものすごく臨場感にあふれている。そして、2人の距離感も抜群だ!ジェットコースター!♪☆



 

第16話


「ぶちおぉ!」


「なんだよ、今度は」


「マジもう、オレたち結婚しちゃうぞ♪秋には式を挙げたいと彼女が言ってきた。どうだ!」


「それはよかったな。じゃ」



プチ



てん、てん、てこてんてんてこてたん。



「それでな、「どうせなら盛大に挙げたいから、お金が必要だよね。でも、あたし家庭の事情でお金がほとんどないから、申し訳ないけど・・・費用は出してくれないかな。どうせ結婚するからいいでしょ」」


って言われてな。


「先ず頭金が必要だから、明日までに50万円お願いします。あたしが式場に渡しておくから。こういうのは女の仕事でしょ」


「どうだ!頼り甲斐があるだろ、オレって」


「それで?渡したのか・・・」


「そうや」


「・・・・・」


「おまえ、それはロマンス詐欺だ。もうそいつには関わるな。わかったな。残念だが50万はあきらめろ。わかったな!」


「なんだ!おまえ、ケンカしたいんか?オレだけシアワセになって妬いているんだろ?親友だろ」


「いいか、もう一度言うぞ。これまでのことを冷静に思いだしてみろ。おかしいだろ!どこがおかしかったのかは自分で考えろ。いいか、そいつには二度と関わるなよ。ロマンス詐欺だ。このままだとおまえは、全財産をむしり取られる」


プチ


はぁ・・・あの馬鹿。



数日後


「ぶちお、すまんな。目が覚めたよ。やっぱり何から何まで変だった。都合よすぎたよ。この頃彼女の話はお金のことばかり。オレは、舞い上がってた。今度つきあっててくれないか。飲もう。おまえのおごりでな!だってオレは50万取り返さないといかんし笑」


「バカが・・」




第17話


なるほど。質素というかシンプルな外観の部屋だな。彼女らしい。そんなに新しくはないようだな。


表札はない。それが安全にいいだろう。



ピンポーン



いつものように、無口な彼女が押しきってだしたような優しい声で応えてくれた

彼女のファッションスタイルは、定番のメーテルではなく、春めく木々をあしらった淡いブルーのワンピースに足元は白いスニーカー、そしていつものロシア帽子と違って麦わら帽子を持っている。いつもより清楚なイメージを受けた。オレは薄茶の半袖バンドカラーシャツに濃いパンツでまとめてみた(みぃちゃんの見立て!)


「メーテル、お似合いだな~」


「ありがとう。でもぶちおさんは、もと警官の探偵だけあってスタイルがものすごくよいのがわかってね。決まっているわよ」



「あ、でも麦わらは飛んでいっちゃうよ」


 


メタボよ。いいクルマだな!



「きやー!うわ、わー駄目、降りたい♪降りたーい!楽しいでーす!!」



どうだ!オレのドラテクは笑





インド料理の店に入ると、彼女は急にいつもよりも、いっそう無口になった

 

どうしたのかな?


瞳を左右に動かしている。

  

迷っている証拠だ。


「なにを迷ってる?」


「あ、の」


オーダーしたカレーとナン、ラッシーのセットがテーブルに置かれた・・・・・


「あの・・・ごめんなさい。やっぱりあなたとはおつきあいできない」


目尻から悲しい涙を落とす。

 

「どうしたん?」


「だって、ふさわしくない。あなたには、ふさわしくない・・・・・」


「なぜ?」


「わたし、あなたにお願いしたいことがあった。でも、ムリです。言えないです」


「なに?言ってみて、怒らない」


「お金、お金を貸してほしい・・カードの支払いができないの」


「いくら?」


「40万」


「よし、お任せくだされ!ここまで導いてくれたお礼に、この鉄郎がメーテルを助けてあげるよ」


「ありがとう」


無口で尚更憂いに満ちている。





第18話


とても寅吉の相手をしてやる気にはならない。


あいつに言った言葉が、すべて自分に返って来ているではないか。


浮かれていたのはオレもだ。


でも彼女のことは放っておけない。信じていたい。





第19話


お金を渡して以来、彼女からもオレからもなにも連絡はないし、していない。めずらしく仕事に追われている7月になっていた。忙しくて暇はないのだが、頭の中は彼女のことしかない。仕事はミスばかりでメタボに頼りきりだ。


「ぶちおさーん、しっかりしてくださいよ。つぎは宮本さんちの草むしりです。行きますよ!」



「こら!暇探偵。なにがあったか知らないけれど。うちのハヤシを食べないなんて、しっかりせい」



「おい!ぶちお!なんや塞ぎ込んでると聞いたが!依頼があるがとてもムリだな・・・・・これは。人生気合いだぞ」


 

叔母は叔母で

「で、ひとみさんとはどうなったの?」

これが最もキツくて、悲しい。





第20話


てん、てんてん、てかてか、とんとん!


メーテルからだ。


「メーテル。どうしたの?」


「あの、もし会ってくれるなら、くれるなら。お話したいことがあります」


「もちろん」


「しゃあ、つぎの日曜日に、今度はわたしが迎えに行きます」





第21話


真っ赤で大きなsuvが白熊の前に乗り付けられたとき、店の前に出てきたメタボもみぃちゃんも白熊ちゃんも、空いた口が塞がなかった・・・オレも瞳がこれ以上大きくならないほど、呆気に取られていた。


「こんにちは。メーテルひとみです。おどろかせてしまいましてすみません・・・・・」


お、すごい!乗りこなしている。



「すみません。驚いたでしょう。理由は後からお話します。今日はありがとうございます」


「・・・」

このクルマはどうしたんだろう・・とても彼女が買える金額でないはずだ・・頭には、嫌な考えが浮かんでは、そして懸命に消してゆく作業を繰り返している。


そして寅吉のことを思い出してしまう。




「あの・・散らかっていますけど、お入りください」





第22話


・・・・・・・・・・・


目につくのはソニーの超大型テレビ、その横に置いてあるのはJBLの大きなスピーカー。高価なオーディオシステム


熱帯魚の水槽が恐ろしく大きい

テーブルも立派でこれはオーダーメードだろう。この珈琲カップも高価なものに違いない。最新の家電ばかりだし、ソファは本革のものだ。そして彼女が開けて見せたクローゼットのなかには、様々な服と靴がずらりと並んでいる

そして、あのクルマ。




「すみません。へんなものを見せてしまいました」


「きみは浪費症なの?」


「はい、病院に通っています」



「しばらく聞いてください」


「わたし、欲しいと思ったものは我慢ができないんです。欲しいと思ったものは、後先考えないで買っちゃいます。我慢できないんです。そうやって浪費します。毎月カードの明細を見て、購入したものの山とその金額を見て落ち込みます。そういう病気なんです。なかなか治りません」


「こないだもクレジットの引き落としができないと分かって・・・あなたを頼りました。そんなことしてしまうとあなたに嫌われると分かっています。何度もこうしたことをくり返しして、その度に嫌われてきました。でもダメだった。これでクレジットが使えなくなると生きてゆけないと思いました。わたしはどうしょうもない猫です。でもあなたには、嫌われてもいいので、わたしのことを知ってほしかった」



「わたしは、あなたが大好きです。信じてください」


「あなたを利用するためにおつきあいしたのではありません。・・・こころのどこかに、浪費症のわたしは「あなたに嫌われてはいけない」と思っていたのかもしれません。あなたのことが好きで、嫌われたくないと自分自身に言い聞かせている、と思っていたんです。そしてそのこころは、偽りのないものになりました。でも信じてください。わたしは会ったその日から、優しさと逞しさを感じさせるあなたが好きだった。利用しようなんて少しも思わなかった」



「教えくれてありがとう・・」



「愛想が尽きたでしょう。わかったら、帰ってください」






第23話


どういう言葉をかけてあげたらよいのだろう。


わからない・・・。


ふと、あの言葉が寅吉から自分へ返ってきた。



~本能のなすがまま~




 



「ねえ、メーテル」





「メーテルと呼ばれるのも好きだけど、よければひとみと呼んでください・・・・・」


彼女が話しかけてくるときは、その瞳にいくつもの銀河をしまってあるような気になる。



「ねえ、ひとみ」




「ぶちおさん・・・」




 


エピローグ




「ぶちおさん、ぶちおさん。起きてくださいよ!これから宮本さんちの草刈りですよ。ほら起きてください」


なんだメタボか・・・・・ん、ん、ん、ん・・・はっ!


メーテル!メーテルは?


・・・・・・・・・・・・・なんだ夢か、夢オチか。


メタボには悪いが、もう一度寝よ・・・・・。









「ぶちおさん!ぶちおさん!ほら起きてよ。起きなさい。メタボくんが待ってるじゃないの」


「またこんなに散らかして!依頼人が来たらどうするの」 





彼女が怒っているときは、つめたい瞳をしている。

 

だれにも妥協しない・・・笑





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