母親が亡くなってから、父とぎこちない関係になってしまっている主人公のみゆ。
彼女は母の友人・小夜子と文通でやり取りをしているが、小夜子と母のあいだには過去に父をめぐって激しい対立があった。
そんな母は亡くなる前に、小夜子に夫と娘のことを頼み、夫には小夜子を頼れと言い残している。なんとも複雑な関係だ。
亡き母への思慕と、父と小夜子への想い。
主人公の揺れ動く心情が繊細に表現されていて、読んでいて胸が締め付けられました。
みゆが色々なしがらみから解放されて、ぼろぼろと涙をこぼす場面でホッとしました。
息苦しさを感じていたみゆが、最後に大きく深呼吸をする場面では、彼女の晴れやかな笑顔が浮かんできました。
父と娘、母と娘、男と女、複雑な人間模様を描いた秀逸な作品です。
ぜひ、読んでみてください!
母を亡くした家族の父娘のうち、娘さんを主人公とした一人称視点で綴られる物語。
巧みな表現力、豊かな情感に、読めば自然と心に沁み入ってきて、共感せずにはいられませんでした。
「家族」をテーマにし、喪失感・思春期の懊悩・罪悪感……誰もが感じたことのある「人生の悩み」を、投影してしまうかもしれません。それは私自身も、あるいはこの作品を読んだ皆様も。
亡き母と過ごした時間を思い、時間を停滞させてしまう選択をしたことへの、その罪悪感……「巡礼」という表現が、楔のように心に刺さり、まさに心痛を感じるほどです。
けれど時間は、本当に停滞しているわけではありません。絶えず、絶えず、流れ続けて、変化を齎しています。
時の流れは残酷だ、と良く言います。それもまた、確かだと思います。
ただ、この作品の中で、時間が齎した変化とは……美しく、優しく、鮮明なまでに色づいた、温かなものでした。
主人公本人は罪悪感を覚えていた「時間」が、本当に紡いでいたものは、何だったのか。合縁奇縁の言葉が思わず浮かぶ、その真実に、この物語の温かさに、是非とも触れて頂きたいです。
1話完結6千字あまりの短編、スパッと読めて最大限の満足感、是非ともご一読をおすすめ致します。
時には傷つき、深い悩みに囚われてしまう、そんな時間も……けれど決して無駄ではなく、やがては時間が鮮明に色づけてくれるのかもしれない……そう信じさせてくれる名文でした。
この作品を読んだ人の数だけ、きっと、思い起こされる美しい情景があるはず。
そこにも そこにも
かしこ
この春、大学生になる主人公。
中学三年の頃、彼女は母を失い、それからは父と二人暮らしだった。数年を経た今、大学進学のため一人暮らしをする準備を進めながら、彼女の中の虚しさが色を濃くしていく。
高校受験のストレスを抱える最中、家族を繋いでいた母を失った彼女の苦しみ。娘と向き合うことに慣れていない父の、娘へ働きかけようとする努力。その努力を娘から静かに拒まれてきた父の苦しみに、彼女は思いを馳せる。そして、かつて母の友人であり恋敵で、父が母を選んだことで今も単身のまま古民家カフェを営む女性の存在——。高校時代を終えた主人公とその周囲の人々の関係が、この節目をきっかけに形を変えていく。
それぞれのキャラクターが抱く、人間らしく複雑な感情。それらが絡み合い、でもただ心地よく都合よく絡み合うのではなく、それぞれの感情をしっかりと維持しながら絡み合う。父と母、母の友人、娘。ぶつかり合い、不協和音を響かせ、時を経て少しずつ混じり合うように調和していく彼らの心。時の経過の尊さが、その根底に静かに流れている。
誰かが欠け、誰かが加わるのではなく、四人はこれからもずっと四人。それこそが幸せなのだと、物語のラストまでの道を辿りながら気づけば深く頷かされる。
読後にじんわりと沁み込んでくる、静かながら熱いほどの幸福感。
桜の花びらが舞う切なさや美しさと相まって、深く胸を抉るような短編。ぜひ多くの人に読んで欲しい作品だ。