魔女が与える鉄槌
蒼空 結舞(あおぞら むすぶ)
《声が出ない》
中世末期から近代にかけてヨーロッパや北アフリカで起こっていたのが『魔女狩り』という行為だ。魔女だと疑われた者は即座に処刑され、のべ九百万人は伸びると呼ばれたその行為。そんななか、中世ヨーロッパの印刷技術が向上してから聖書よりもベストセラーになった書物がある。
『魔女に与える鉄槌』……それは現代にも残る魔女の惨劇であった。そしてそれは、この日本にもあるのだ。
「さて。今日も優雅に裁きますかっ」
背が低めの女性は金色のバッヂを付けて駆け抜ける。それは世の女性や男性、そして子供の為に。自分が魔女だと揶揄されてから、彼女は救う側になったのだ。
魔女は黒髪に赤い色のシャギーの入った髪をなびかせて、ある場所へと向かう。
止まない雨の音と寒さで目を覚ました。目を擦ってぼさぼさの頭を掻く
今年で十六歳となる。しかし、変声期を迎える前に奪われた、出せなくなった”声”を必死に紡ごうとした。
息を吸い込んだ。でも吸い込みすぎてせき込んでしまう。「げっほっ……、えっほっ……!!」
むせる音だけが聞こえた。でも違う。自分が出したのはこの音じゃない。この声じゃない。だから言葉をSNS で紡ぐ。『今日も声が出ない』
フォロワーは何人か居た。この場所では話すことができた。
今度は少しだけ吸った。そして今だと思って出そうとした瞬間に、――ガラスが割
れる音が聞こえた。「……――――っっ!!???」
ドアを開けて狭い廊下をそろりと見るとドアが開かれていた。そこには母親と母
親が交際しているホストの男がなにやら喧嘩をしていたのだ。母親が怒りめいた瞳で端正な顔立ちの男を睨みつけた。
「あんたもあたしを捨てるのっ!??? どうしてっ!?」
「はぁ? 俺はなぁ、あんたの金目的で付き合ってやったの。子持ちなんて聞いてないんだけど?」
ホストの男は若作りしている母親へ向けて侮蔑するように言い放った。しかし母親も負けていない。
母親が覗き込んでいるナツメを見た。それから深く息を吐き出す。まるでナツメなど居なくなって欲しいなどと言うように。「あたしはね、本当は産みたくなかったの。でも産まないと女として見られなかったから産んだのよ」
ナツメの心に斧のようなものが振りかかり、自分の喉を奪おうとしていた。引き裂いていた。しかし母親はナツメのことなど知らないように若い男へ抱きしめたのだ。男はどういうことなのかその意図がわからずにいる。
「あたしがあんたを満足してあげる。あんな子供はいらないけど、あの子が居れば亡くなった男の遺産はぜーんぶ、あたしのモノ。だからあたしがあんたを幸せにしてあげる」
絶句した。母親がこんなに醜悪な女だとは思いもしなかった。そういえば母親はこうやって男に取り入って、貢がせては逆に男に貢いでいた。
そんな中でナツメは変声期を迎える前に声が出せなくなってしまっていた。声が出せなくなってからも変わることはなかった。
日常は暗く渦巻いたまま。自分の声はどう変わったのかさえわからない。ナツメは醜く男に乞う母親の姿を見たくなくて、行動に出た。
ぼさぼさの髪を直して、ひげを剃った。髪は女の子のように長いが自分で切ったのでミディアムくらいだ。SNSを開く。『今から外に出るね。いつもの場所で』
そんな状態で、玄関から靴を持っていって、――窓から外へ飛び出した。目的地はいつもの場所であった。
魔女が与える鉄槌 蒼空 結舞(あおぞら むすぶ) @kannadukiaoi-0907
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