辺境に追放されて50年の大賢者は若返り、二度目の英雄伝説が始まる。

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前編

『マンガがうがう』にて、この短編をベースにしたコミカライズが連載中です。よろしければ、こちらもぜひ!

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 俺……マリク・ガリアードは『魔王討伐パーティ』の仲間たちとともに魔王に立ち向かっていた。


 十年間続いた魔族と人間の戦いに決着をつけるべく、人類最強の剣士や魔術師たちで結成された一騎当千の最強パーティだ。


 魔王軍の強敵をすべて打ち倒し、ようやく魔王と対峙できたが――さすがに魔族の王だけあって、魔王の強さは他の魔族とは次元が違っていた。


 仲間たちは傷だらけだ。


 再起不能のダメージを受けた者もいる。


 そんな中、俺だけがほとんど無傷だった。


「ここまでだ、魔王。お前は確かに強い。けれど魔法戦闘に限れば――俺の方がわずかに上だ」


 俺が魔王に言い放つ。


「『漆黒のガリアード』……聞きしに勝る使い手よな。我が四天王すら撃ち破っただけのことはある。我にまでこれほどの傷を与えるとは――」


 魔王がうめく。


「だが――人間ごときが余を上回るだと? あまりいい気になるなよ!」

 その全身から炎と稲妻がほとばしった。


 圧倒的な魔力に任せた攻撃魔法の乱舞。


「お前こそ――人間を舐めるな!」


 ヴヴヴヴヴッ!


 俺の前面に五つの石板が浮かぶ。


 それぞれの石板から飛び出した炎や稲妻、魔弾、魔力の剣が、魔王の攻撃魔法を迎撃し、次々に撃ち落としていく。


 さらに撃ち落としきれなかった攻撃は、防壁を生み出して弾き返す。


「五体の異界の魔王で、五種の魔力を操るか……人間ごときが――」


 そう、俺は異世界の魔王五体と契約している。


 彼らから力を借り、魔王級の魔法を行使する――。


 それが俺の戦闘スタイルだ。


「こっちは魔王五体分の力がある。いくらお前が強くても、しょせんは一体――俺の勝ちだ」

「くっ……」

「お前にできることは、俺にもできる」


 俺はニヤリとした。


「俺も魔王の力を使えるんだからな」

「人間が……魔王と同じレベルの魔法を操るとは……生意気なぁ……!」


 激高する魔王を俺はまっすぐ見据えた。


 魔力をさらに練り上げる。


 前衛の戦士たちが壁になり、俺以外の魔術師が魔王を牽制してくれたおかげで、魔力を十分に高めることができた。


 今なら最大威力の魔法を撃てるはずだ。


「これで終わりにするぞ、魔王!」

「終わるのは貴様の方だ!」


 魔王が黒い魔力球を放った。


 その瞬間、俺も魔力をありったけ込め、異界の魔王の力を借りて最強の魔法を放つ。


「【暗黒煉獄炎帝破ガリアードフレア】!」


 漆黒の炎が魔王の魔力球を飲みこみ、消滅させ、さらに魔王自体を飲みこんだ。


「ぐああああああ……ば、馬鹿な、この余がぁぁぁぁっ……!?」


 絶叫とともに魔王が消滅する。


「やった……」


 やったぞ。


 世界を、救ったんだ!




 魔王との戦いから一か月が過ぎた。


 俺たち『魔王討伐パーティ』は世界を救った英雄として持てはやされた。


 特に俺は魔王にトドメを刺したため、『魔王討伐パーティ』の中心人物という扱いを受けることが多かった。


 ただ、俺としては『全員の力で魔王を倒した』という意識が強いため、この扱いはあまり好きじゃない。


 仲間たちはみんな俺を称えてくれるが――。


 称えられるべきなのは、仲間たち全員だ。


 そんなことを考えながら過ごす日々の中で、俺は仲間の一人に呼び出された。


 魔術師リーナス・ゼル。


 パーティの中で俺とは双璧と呼ばれている魔術師だ。


「話ってなんだ、リーナス」

「最近、ますます大人気らしいな、マリク」


 リーナスが嬉しそうに笑った。


 人懐っこい笑顔。


 二十五歳の青年なのに、まるで十代前半の少年のように見える。


「噂や偶像が独り歩きしてるんだよ。大体、俺一人で魔王を倒したわけじゃないからな。あくまでもトドメを刺したのが俺というだけで……俺だけに人気が集中するのは嬉しくない」

「生真面目な君らしいな、マリク」

「だいたい『人気者』なんて俺のガラじゃない。そういうのは、むしろお前たちのほうが――」

「そうだな」


 俺の言葉にリーナスが真顔でうなずいた。


「君一人に人気が集中するのはよろしくない。民衆からは君をどこかの国の王に……なんて言葉もひっきりなしに聞こえてくる」

「俺が王? よしてくれ、ガラじゃない」


 俺は苦笑した。


「いや、実際そういう声は日増しに大きくなっているよ」


 リーナスが微笑む。


 そのとき、ふと……俺は気づいてしまった。


 奴からの視線がやけにキツい。


 顔は笑っているけど、目だけは笑っていないんだ。


 まるで俺を憎んでいるかのような目つき――。


 いや、そんなの気のせいだよな。


 リーナスは大切な仲間で最高の親友だ。


「僕はこう思うんだ。君さえいなくなればいいのに、って」

「えっ」

「君がいなければ、僕ら他のパーティメンバーは平等に持てはやされたはずなんだ。君が突出して目立つ活躍をしてしまったものだから、僕らの陰が薄くなった」

「はは、考えすぎだって」

「だから、君には消えてもらうことにした」


 リーナスが淡々と告げた。


「…………………………えっ?」


 あまりにも唐突すぎて、俺は間抜けな声を上げてしまった。


 理解が追い付かない。


 今、こいつはなんて言った……?


「君は魔王と通じていた。そして、魔王亡き後、魔王軍を掌握して新たな魔王になろうと画策している。僕らはその証拠をつかんだんだ」


 リーナスが朗々と告げた。


「冗談にしても、それはちょっと笑えないぞ、リーナス」

「冗談? 僕は本気さ」


 リーナスが俺を見つめる。


 その目は――いや、その表情もすでに笑っていない。


 憎々しげに俺をにらんでいた。


「世界の敵、マリク・ガリアード。僕らは君を糾弾し、君を捕らえる」

「何……?」


 周囲に人の気配がいくつも同時に出現した。


「お前ら――?」


 全員ではないが『魔王討伐パーティ』の連中が何人かいた。


 さらに知らない顔もいくつかある。


 誰もが俺を憎々しげににらんでいた。


「君の英雄としての名声はここで終わる。そしてこれからは新たな魔王としての汚名だけが残るんだ」

「観念しろ、マリク」

「いくらお前が強くても、この人数相手には勝てまい?」


 リーナスが俺を指さす。


 その指先に魔力の光が宿った。


「こいつ――!」


 本気で俺を攻撃する気か!?


 戦いは……避けられないのか!?




 結局、俺はリーナスたちに濡れ衣を着せられ、命からがら逃げだした。


 本気で戦えば、彼らの大半を殺せたかもしれない。


 けれど、俺にはできなかった。


 何年も一緒に戦ってきた仲間が何人もいたし、特にリーナスは親友とさえ思っていたのだ。


 それがいきなり『お前は新たな魔王になり替わろうとしている世界の敵だ』なんて濡れ衣を着せられ、断罪されたら――。


 その時点で俺は大きな精神的ショックを受け、どうしても戦意を発揮できなかった。


 結果、俺はリーナスから強力無比な呪いを受けることになった。


 その呪いとは――『魔法封じ』。


 俺は初級の魔法のいくつかをかろうじて使える程度で、後はまったく魔法を使えなくなった。


 魔術師としては、もう終わりだ。


 俺は失意のまま、辺境の地に移り住んだ。


 大陸の東の端の端――。


 ここまで逃げれば、リーナスたちの追っ手からも逃れられるだろう。


 そして案の定、世界では俺の悪名が一気に広まった。


 内容はリーナスから言われたものと同じ。


 俺が魔王軍を従え、新たな魔王として人間界に討って出ようとしていたこと。


 リーナスたちがいち早くそれを察知し、俺を倒したこと。


「命を懸けて、魔王を倒して、世界を救って……そのあげくがこの仕打ちか……」


 虚しかった。


 なんだか、すべてがどうでもよくなってしまった。


 俺は『マリク・バレッタ』と名を変え、大陸の果ての果てともいえる辺境の村で暮らし始めた。


 幸い初級の魔法のいくつかを使えるおかげで、生活はかなり便利だ。


 かつてのように大火力の攻撃魔法や大規模儀式魔法、召喚魔法などはもう使えない。


 けれど、初級魔法でも使いようによっては十分に効果を発揮できる。


 魔族と戦うほどの能力はなくなっても、野生のモンスターくらいなら戦える。


 そうやって、俺は世界を救った英雄から、単なる村人として暮らし始めた。

 一年、二年、三年。


 七年目に一人の少女――村人の一人の娘だ――から請われ、魔法を教えることになった。


 魔術師の素質を持つのは圧倒的に貴族が多いが、まれにそうではない人間からも素質者が生まれることもある。


 俺のところに来たのは、そんな素質者だ。


 どうせ大してやることもないし、俺は彼女に魔法の手ほどきをした。


 何年も何年も、俺は付きっ切りで彼女を指導した。


 最初は芽が出なかったが、辛抱強く教え続け、彼女も努力を続けているうちに、やがて才能が花開いた。


 五年ほど教えると、彼女はみるみる腕を伸ばしていき、やがて一流といっていい実力の魔術師に成長し、やがて村を出ていった。


 数年後、彼女がある国の魔法師団長になったと聞いて、俺も誇らしい気持ちになったものだ。


 以来、ときどき俺のところに弟子志望が来るようになった。





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