秋空の下で
月見つむぎ
秋空の下で
——やっと不自由な身から解放される。
病院特有のにおいに慣れた頃、ようやく点滴を外された。右腕には赤黒い跡が付いていた。
外の空気を吸いたくて、一階へ降り中庭へ続く廊下をゆっくりと歩き続けた。
外に繋がる扉を開けると冷たい空気が流れてくる。
「もう、秋か」
誰もいない中庭に向かって呟く。昼前だからか人は自分しかいない。
落ち葉を踏みしめながら空を見上げる。コンクリートに囲われた空は雲ひとつなく、どこまでも青かった。
貴族にでもなった気分で悠々と中庭を一周してみる。
風が色づいた木々の葉を揺らす。風は冷たいが日差しは暖かい。猫になれたら日向ぼっこができるだろうか。
病室に戻りたくなくて歩くスピードを落とす。しかし、そこまで広くもない中庭の散歩はあっという間に終わった。
この生活はもうしばらく続くようだ。夜になれば、またあの薄暗い部屋に押し込められる。
もう一度空を見上げた。アキアカネが視界を横切っていく。
澄んだ空気を思いっきり吸って吐き出した。
——ああ、漬けておいた梅酒が飲みたい。
秋空の下で 月見つむぎ @tsukimi_tsumugi
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