⑥
ゲームセンター『スターライト』は、愛知県名古屋市中村区にある。
翔真の自宅があるのも、通う高校があるのも、この中村区だ。
だから、『スターライト』は地元のゲームセンターということになる。
所謂、「ホームゲーセン」だ。
中村区と言えば、ターミナル駅たる名古屋駅が存在する中京圏の心臓部だが、主に発展しているのは「
住宅街らしく公園があちらこちらに存在するが、幼稚園児や小学生ならまだしも、中学生、高校生が集う場所ではないだろう。パチンコ店こそ数件あるけれど、こちらは逆に、学生、正確には十八歳未満は立ち入ることができない。
(……この辺り、何もないからなー……)
翔真等が「この辺り」と言う際、それは名古屋駅西側を指している。
名古屋駅周りや
遊ぶ場所なんて多いに越したことはないし、近ければ近いだけ良い。
今日のように遅い時間からでも気軽に行けるからだ。
もし、場所を説明してくれ、と頼まれたなら、翔真は「東山線に乗って、中村公園で降りて、あとは地図アプリで調べてくれ」と細かな案内を投げ出す。地元の人間しか知らない小さな店なので、そんな機会が訪れることはないだろうが。
学校の友達から場所を教えてほしいと言われた時は、一緒に店に向かうことで解決した。
高校からは自転車で五分。
口頭で説明するより、連れて行った方が早い。
だから、六時近くに校門を出た今日も、六時には現地に到着していた。
正確には午後五時五十九分には。
着いた時間が午後六時だろうと午後五時五十九分だろうと、若しくは午後六時一分だろうと、多くの人間にとってはどうでも良いことだっただろう。
翔真とて同じだ。大体六時には着くだろうと思っていたし、その通りになった。
当たり前だ。
まさか一分の差で自分の運命が変わろうなんて、分かるはずもない。
「よ、っと」
自転車から飛び降りつつ、その勢いを殺す。
店の前には通学用のママチャリが何台か停まっていた。
一軒家やマンション、団地が建ち並ぶ中にぽつんとある小さな公園。
そのすぐ傍らにある二階建ての小さな店舗。
それが『スターライト』だ。
1990年代でもあるまいし、ゲーセン通いをする高校生なんて少数派も少数派だ。
パソコンでも、スマートフォンでも、家庭用ゲーム機でも。どんなプラットフォームでも全世界と繋がれるようになった現代では、わざわざゲームセンターに行く必要はないのかもしれない。
それでも、翔真はゲームセンターが好きだった。
小学生の頃、年の離れた従兄弟に連れられて足を踏み入れた時から、ずっと。
並ぶママチャリの隣に愛車を停めて、誰が来てるかなと期待に胸を膨らませた時、
「ん?」
地面で何かが光った。
目を凝らす。
隣の自転車の後輪の脇にネックレスが落ちていた。
細いチェーンの先に親指大の細長い水晶が付いており、澄んだ空のように綺麗な青色をしている。
拾い上げて、矯めつ眇めつ。
アクセサリー類に興味はないが、何故か気になった。
ただ綺麗なだけではなく、微かに光っているように見えたからかもしれない。
(店に来た奴の落とし物かな。店長に渡しとくか)
手にしたそれをポケットに突っ込むと、自転車のカゴから学生鞄を取って、店内へと向かう。
午後六時、ちょうど。
もう十秒ほどで午後六時一分になるタイミングだった。
自動ドアが左右に開く。
店内の喧騒が一気に流れ出す。
翔真は足を踏み入れる。
瞬間――視界が暗転した。
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