エピローグ:『記された尊厳』

エピローグ:『記された尊厳』


【舞台:佐々木家の新しい借家】 かつての大きな実家はもうありませんが、陽当たりの良い小さな平屋の庭で、健二と、車椅子に座る嘉男が穏やかに将棋を指しています。嘉男の表情からは、施設にいた頃の虚ろさは消え、時折「おっと、そこは王手だな」と笑うほどに回復しています。


【シーン:後見制度の「その後」】 テレビのニュースが流れています。 「……本日、成年後見制度の抜本的見直しを盛り込んだ改正法案が可決されました。家族の面会権の明文化と、専門職後見人に対する監督体制が大幅に強化される見通しです」 画面には、かつて健二と共に戦った石井靖子が、国会前で力強くガッツポーズをする姿が映し出されます。


【シーン:九条の去就】 一方、裁判所の一室。 九条は弁護士資格を停止され、以前の傲慢な姿とは程遠い、疲れ切った足取りで廊下を歩いています。彼は法を「武器」としてきましたが、最後は自らが軽視した「人の感情」という証言によって、その地位を追われました。


【ラストシーン:父の言葉】 健二が嘉男に「お茶を入れようか」と声をかけると、嘉男は一冊の古いノートを手渡します。それは、あの日差し押さえられそうになり、健二が命がけで守り抜いた父の日記です。


最後の一ページには、震える筆跡でこう記されていました。


「私の人生の最後を、誰にも、法律にさえも、奪わせなかった。息子が私を『人間』として見つけてくれたからだ。ありがとう。」


健二の目に涙が溢れます。 二人の背後を、健二の娘・結衣が「おじいちゃん、お茶入ったよ!」と明るい声で横切ります。


カメラはゆっくりと空へ引き、街のあちこちに広がる家々を映し出します。 その一つ一つの窓の奥に、誰にも侵されてはならない「家族の形」があることを示唆しながら、画面がホワイトアウトします。


【テロップ】 この物語はフィクションだが、いま、この瞬間も誰かの身に起きている現実かもしれない。


(終)


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『仕立て上げられたぼけ老人』 春秋花壇 @mai5000jp

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