問題のある日常の物語_挿話ノ壱

@mayoko_blossom

蜜柑

とある配達業者さんが、自宅にみかん箱を持ってやってきた。先日、電子商取引で購入した糖度の高いみかんが届いたのだ。


---挿話ノそうわのいち/蜜柑みかん---


 慌てて玄関を開けてて荷物を受け取る。箱の上に伝票を置かれ、慣れた手つきでボールポイントペンを取り出す。

この仕草はいつ見てもかっこいいものだと思いながら、伝票の指定された箇所に私の苗字を書いた。

 

そこで不思議なことに気づいた。

箱が開いている。

いやいや、まさかと箱を上から軽く押すと「バコッ」と大きな音を立てて箱が内側に開いた。


すると、その様子を見ていた配達員の方が「発送元の方でしっかり梱包してなかったせいで箱、一度潰れちゃったんス、それで僕があの角にある八百屋さんで段ボールを貰って、新しく詰め直したんス。」

彼は八百屋さんの方へ人差し指を伸ばした。

「あと、これもっス」と後ろの台車に積まれた綺麗な段ボールから合成樹脂容器を、私が持つみかん箱の上に次々と乗せてきた。

「えっ?えっ?」

私はよろよろと箱を落としそうになりながら、彼が楽しい玩具を見つけた幼児の様な、そんな無邪気さに呆気にとられた。

「これで全部っス」

 全部で11個の合成樹脂容器が私の持つみかん箱の上に器用に積まれている

不思議そうに見るとそれは一つ一つ丁寧に合成樹脂容器に入ったみかん(多分、不知火しらぬい)であった。

「潰れてしまったみかんは流石にまずいと思って、新しいみかんを買ったんス」

彼は満面の笑みで、再び八百屋さんの方へ人差し指を伸ばした。

「はぁ...」

口の中の水分が無いことに気づく。私はこの間ずっと開いた口が塞がらなかったのだ。

それでも何か言わなければならない。

この先もこの彼は、私の家に荷物を届けてくれるのではないかと脳裏によぎったからだ。

「色々とお気遣いありがとうございます。」

私は頭の中で、精一杯の世辞を探し出し、それを言葉にして彼に告げた。

「そんなに喜んで貰えて、俺、頑張った甲斐があったっス」

彼は心の底から本気で喜んでいた。

彼の耳が真っ赤に染まる。

きっと普段はこんなことしないのだろう、私は特別なのであろう。そう思うと、私は彼に何かしてあげたくなった。私はこの事を後に後悔することになる。

「ふぬっ」

重たいものを久しぶりに持ったと言わんばかりに、私の顔も赤くなっていたであろうからこれでおあいこだ。

 

ようやく床に置くことが出来た。

振り返って彼の目を見ながらこう言った。

「何か冷たいもの渡すからちょっと待ってて。」

それを聞いた彼の反応は意外なものだった。

「あ、自分飲み物は大丈夫ッス」

遠慮しがちの好青年を気取るか。やるな。

そう思いながら、こちらから提案した事を、おめおめ引き下がれない。私には私の意地がある。

「そっか、別に何かあればいいんだけど...」

良い会話を続けることに成功した。

「あの...良かったらなんスけど...」

そんな、顔を赤らめて何を言い出すのだろう。

私は柄にもなく彼が放とうとしている言葉には背徳性があるのではないかと身構えた。

「あの、マッ〇の...ポテトなんスけど、良かったらもらえないスか?俺、朝から何も食ってないんス」

私の中で何かが音を立てて崩れた。

「そうだ、私は食事中だったのだ。」

 彼は顔を赤らめながら、玄関から見える食卓机に置いてある、〇ックの高温で揚げた馬鈴薯(ばれいしょ)に向かって、鋭く人差し指を伸ばした。

「えっ、ん...あぁ馬鈴薯ばれいしょ??」

頭の中は崩れた何かに対し、瓦礫改修工事の依頼を手早く出したせいで、言葉が上手く組み立てられない。廃棄と再建、同時は無理だ。

「ひ、ひとつでいい?」

だめだ、声が震えてしまう。

「えっ!いいんスか!ありがぁざぁーす!」

もう、ありがとうございますが聞き取れない。それほどまでに彼は高揚していた。

「どうぞ」

手渡す袋に入った揚げた馬鈴薯はまだ、ほんのり温かく、揚げ物の香りを十分に纏っていた。

「じゃあ、これで。またよろしくお願いしまッス」

彼はそう言うと、心弾んで落ち着かない様子で台車を押して帰っていった。

玄関には彼の無邪気そうな表情を思い返すことなく、床に散らばっていたみかん(不知火)と冷めた揚げた馬鈴薯に氷の溶けた檸檬紅茶れもんこうちゃが私を優しく迎えてくれた。

椅子に座り、すうっと息を吸うと溜まりに溜まった想いが口から飛び出した。


問1

吐き出した言葉を述べよ。

( )

 

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