やっとあなたに言えた言葉
夏実
ずっと温めてきた言葉
「やぁ、また会いましたね」
私はそう言って、目の前にいたその人に声をかけた。彼女は私に気が付くと、笑顔で手を振ってくれた。
「あっ、また来てくれたんだね! うれしいよ! ちょうど会いたいって思ってたんだ!」
「そうでしたか。私もまた会えてうれしいです」
笑顔の彼女につれられて、私もつい笑みをこぼす。
彼女とは既に何回も会っている仲なのだが、なかなか二人でゆっくり話をしたことはない。彼女の周りにはいつも友人たちがいて、楽しそうに雑談をしたり遊んだりしている。眺めているだけでも楽しいのだが、今日は違う。私は彼女と二人で話がしたい。そう思っていた。
「ねぇ、せっかくだし、今日は私の友達とも話してみない? みんな良い人だから、君も仲良くなれると思うよ!」
彼女はそう言ってきた。私は少し悩んだが、明るい彼女の雰囲気に流されて、少しだけその輪に混ざることとなった。
「……そうですね。では、少しだけ」
「やった! じゃあ、紹介するね! こっちが私の――」
そう言って、彼女が自分の友達を紹介してきた。確かに彼女の言う通り、皆良い人なのだろう。初対面の私ともフレンドリーな態度で接してくれた。
私はいつの間にか、彼女たちの輪に入り、雑談を楽しんだ。話はあっという間に盛り上がり、時間が0時を過ぎても終わる気配はなかった。
しかし、そんな時間も永遠には続かない。時間が過ぎていくにつれ、ひとり、またひとりと離脱していく。皆が離脱するころには、私と彼女しか残っていなかった。その時の時間は深夜2時。人がいなくなるのも当たり前だ。
「みんないなくなっちゃったね……。君はまだ起きてるの?」
「えぇ。……まだ、私にはやり残したことがあるので」
「やり残したこと? それって今日じゃなきゃダメなやつ?」
彼女は私にそう尋ねてきた。厳密には、今日でなくてはダメだというわけでもない。しかし、二人きりになった現状を見過ごす訳にもいかない。これは絶好のチャンスだ。
「……あの、ここにいるのもなんですし、移動しませんか? いい場所、知ってますので」
「えー本当! 君が知ってる場所なら、良いところなんだろうなぁ! 教えて!」
私の言葉に彼女は楽しそうな様子を見せた。私は彼女を連れて、とっておきの場所へと移動する。そこは月が良く見えて、夜空も綺麗に見える場所だ。私はどうしても、この場所を彼女に見せたかった。
「わぁ、きれい! こんな場所があったなんて!」
「えぇ、私も初めて見つけた時、とても綺麗な場所だと思いましたよ。……いつかここへ、あなたを連れてきたい。そう思っていました」
「そうなんだ! なんだかうれしいな、ありがとう!」
彼女は煌めく月の下で、笑顔を見せる。私はその笑顔を見て、ずっと抑えてきた気持ちを吐き出す。
「……実は、ずっと思っていたんです。いつ、あなたをここに連れてこようか。いつ、あなたに私の気持ちを伝えるか。ずっと悩んできました。……今なら、あなたに伝えられそうです」
「え、それって……」
彼女が察して言いよどむ。私は、一呼吸置いて、その言葉を口に出した。
「……私と付き合ってくれませんか。あなたのこと、絶対に幸せにします。だから……」
「本当? ……えへへ、うれしい。実はね、私も君とそんな関係になれないかなって、そう思ってたの。だから、今すごくうれしい」
意外な言葉に、私は驚く。しかし、その驚きは喜びに変わり、私は彼女の手をとった。
やっと言えた。私は想いを伝えられたこと、そして彼女も同じ気持ちだったことに、心から安堵するのだった。
やっとあなたに言えた言葉 夏実 @Natsumi711
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