第2話 エッセイ 直感と動揺

 私は直感が高い。別のエッセイでも述べたが、人狼ゲームでは直感型のプレイヤーである。

 ただし、よく言われる「勘がいい」「センスがある」という直感とは、少し違う感触がある。


 なぜ直感が高くなったのか。考えてみると、理由は単純だ。

 私は昔から空気が異様に読めなかった。毒親やいじめといった分かりやすい不幸があったわけではない。ただ、自分の発言で場を変な空気にしてしまうことが多かった。


 空気を読めず、変なことを言い、相手を不快にさせてしまう。

 その経験を重ねるうちに、相手のわずかな不快感を、自分のことのように瞬時に察知する癖がついた。


 その結果、空気が読めるようになったわけではない。

 発言を恐れるようになっただけだが同時に、直感だけは異様に鋭くなった。


 相手が不快になるとき、それは大きく分けて二つしかない。

 こちらが何かをしてしまったか、相手が何かを抱えているか、だ。


 人狼ゲームで直感として表れるのは、後者である。

 こちらが何もしていないのに、相手が一瞬だけ動揺する、その違和感だ。


 これは「嘘の緊張」とは違う。

 嘘をつく人は、「ばれないようにしなければ」と自分を客観視する。その瞬間「自分の嘘に騙される自分」という奇妙な視点が生まれる。

 その結果、緊張や高揚とは別種の動揺が生じる。


 つまり、緊張しているから嘘、ではない。

 自分の発言を顧みているから嘘がにじむのだ。


 このタイプの嘘は、経験則だが見抜きやすい。私だけでなく、多くの人にとってそうだと思う。


 私は日常生活で常に周囲を窺って生きてきた。そのため、嘘に伴う緊張だけでなく、不快感や動揺までも拾ってしまうことがある。そして、それが動作や態度に表れていると指摘できる。


 だが、これは特殊能力ではない。

 現代に生きる人間の多くが、相手の顔色を窺い、不快感を察知する力を持っている。ただ、その感度と自覚に差があるだけだ。


 さらに言えば、人の不快感に敏感な人ほど、自分の不快感にも敏感である。

 そのため嘘をつくとき、自分の嘘に向けられるであろう不快感を無意識にトレースしてしまい、結果として激しく動揺する。

 嘘を見抜ける人間ほど、嘘が下手になる理由でもある。


 『グノーシア』というゲームをご存じだろうか。

 このゲームではキャラクターごとにステータスが設定されているが、基本的に直感が高いキャラクターは演技力が低い。


 これは、自分の不快感への反応を抑えられないことを表現しているのだと、私は解釈している。


 このセンサーがあまりに敏感だと、日常生活では辛い。

 自分の発言が誰かを不快にしているのではないか、と考え続けてしまうからだ。

 センサーが常にフル稼働し、相手の嘘やわずかな動揺を拾い続け、もはや嘘発見器としても敏感すぎて使い物にならない。


 だが、人狼において時に有用である。

 私は人狼以外でこのセンサーをうまく使う方法をまだ知らないが、知っている人がいたら、教えてほしい。

 

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2026年1月1日 12:00

夜寝られない時に考えた話 立方体恐怖症 @LunaticHare

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