真昼の星、あるいは泥濘(ぬかるみ)について
Algo Lighter アルゴライター
1. 凪いだ事務所
探偵事務所のドアが開かなくなってから、今日で十七日目が過ぎた。物理的に開かないのではない。誰もノックをしないから、錆びついたかのように錯覚しているだけだ。
俺、葛城(かつらぎ)は、安物のバーボンのグラスを傾けながら、窓の外の喧騒を見下ろしていた。この街は犯罪で溢れている。スリ、強盗、失踪、そして殺人。本来なら、俺のような私立探偵が過労死してもおかしくないほどの「需要」があるはずだった。
だが、俺のデスクには埃が積もっている。 理由は単純だ。この街には「名探偵」が多すぎるのだ。
テレビのニュースが、また新しい解決劇を報じている。画面の中では、フリル付きのシャツを着た貴族趣味の男――通称『男爵』が、警察すら到着していない現場で犯人を指さしていた。 「犯人はあなたですね。その靴底の土、そしてネクタイの結び目の角度が雄弁に語っていますよ」
事件発生からわずか十五分。警察が現場保存テープを張る前に、すべてが終わっていた。 これが現代の「探偵業」のスタンダードだ。 超人的な観察眼を持つ者、特殊な霊能力を持つ者、あるいは国家レベルのデータベースに直結したAI探偵。彼らはハイエナのように事件を嗅ぎつけ、大なり小なり構わず食い荒らす。猫探しから連続殺人まで、彼らにかかれば数秒から数時間で「解決」というラベルが貼られる。
そこに、地道に靴底を減らし、聞き込みを行い、推論と仮説を積み重ねる俺のような「旧式」の入る隙間はない。
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