この物語は、冴えない優等生のキリルと快活な学校一の人気者であるユリスの交流を描いているように見えます。
しかし実際は、反政府組織を摘発しようとするキリルと反政府的な行動目的の為にオルグ活動を行なうユリスの策謀の物語です。
作者である燈さんは、二人の立場を象徴的に描きます。
二人の政治的な信条さえ明瞭には語られません。
舞台は、おそらく共産的集団指導体制を敷く架空の全体主義国家。
自由を声高に言い募るためには、命を代償にしなけばならない国の物語です。
物語の構図は明快です。
ユリスは、抑圧的な政府の体制を壊して自由を手にしようと画策します。
密かに彼と対峙する者はキリル。
政府の体制を維持するために身分や素性を偽り反政府活動を弾圧しようとします。
本作は、二人の交差と結末を描き出すのです。
このだまし合いは、歴史という視座からみると、ほんとうに瞬く間の相克です。
この争いを眺め終えた読者は、各々の胸中に悲しみとも無常感とも言えないもの。
それでいて、大きな感情を抱くことになるでしょう。
この点で、すでに本作は優れた文芸作品といえるでしょう。
なぜなら、読者をいわく言い難い心情と向き合わせること。
それこそが、文芸作品のもつ意義なのですから。
さて、本作の誘う未確定な感情。
あなたも味わってみては、いかがしょうか?
物語は、どこにでもいる冴えない学生と快活な親友の日常から始まります。
しかし、読み進めるうちに読者は、その平穏な学校生活のすべてが「偽造された舞台装置」であることに気づかされます。
本作の素晴らしいところは、前編・後編で語り手を変え、同じ時系列をなぞり直す構成です。
一見、友情に満ちた会話の裏側で、一歩間違えば死に直結する情報戦がどう展開されていたのか。その舞台裏が暴かれる瞬間のカタルシスは、短編ながらも圧倒的な密度でした。
任務、忠誠、自由。それぞれの「正義」を懸けてぶつかり合った二人のたどり着く場所。
「信じていたものが、足元から崩れ去る感覚」を味わいたい方に、ぜひ読んでいただきたいです。
幻想的なファンタジーや趣味のサッカーをこよなく愛する、名前と裏腹な女子大生作家、燈栄二さんの短編サスペンスです。タグが「スパイ」としかついていない、潔い作品です。が、これは面白い!
主人公は、白髪と赤い眼が特徴的なだけで、これと言って目立つところのない、真面目な秀才キリル18歳。しかし、学園一の人気者、キリルからみたらまるで太陽のようなスター、ユリスと妙に馬が合います。
二人は仲良く学園生活を謳歌していましたが、あるとき、ユリスがとある噂話をキリルにしてくるのです。「なあ、キリル。知ってるか? 何年か前、反乱分子で民主活動家のネフスキーが国外追放になっただろう。その息子がこの学園に忍び込んで、わが国の体制崩壊を画策しているらしいぜ」「へー、そうなんだ」「で、それを嗅ぎ付けた国がスパイを送り込んでるっていうもっぱらの噂だ」「へー、ほんとかな。僕なんかには縁のない話だあ」(こんな感じ。内容不正確)。そうキリルは興味なさげに答えます。
しかし、その夜に、ユリスから、「我が親愛なる祖国のために、4日後に開催する仲間たちの集会に参加してくれ!」と勧誘されるのです。
友人ユリスのために参加すべきなのか。一体誰を信頼できるのか。誰がスパイなのか。国歌とは、体制とは、自由とは、幸せとは、そこを深く問うてくる好編だと思います。
物語の最後に、年老いたキリルが、英雄となったユリスを見上げて何を想うのか。あなたの眼で見届けてください。
燈さんは、広報活動をされないので、★6にとどまっていますが、もっと多くの方に読まれるべき作品だと思います。是非手に取ってみてください。