移植人工知能

 触れるままにするすると指の間を抜け、掌に残った僅かも皺を流れ行く。そうして初めて私は水の冷たさを知った。

 これがなければ、朽ちていく身体。浅い川面に映る女は無表情にこちらを見ている。

 と、やけに胸の苦しいのに襲われた。

 何かが体中を這いずり回る。ドクドクと、内から揺れるのを感じる――。

 砂利が遠くで音を鳴らした。それが自分のついた膝のせいだと気づくのに少しかかった。

 視界の端から暗くなって、次にはうずくまるのが一番楽だった。するともう私はとうとう苦しさが分からなくなった。

 「カハッ」と聞こえる自分の乾いた声‥‥。


 川が天へ向けて流れている――、否、私が寝そべっていた。肩と横腹に刺痛を覚えて起き上がれば、残り香のようにいる耳鳴りがさっきの胸の苦しかったのを思い出させる。

 そこで私は、はっとした。自分の鼻と口とで空気の出し入れをしていた。

 そこで初めて私は呼吸を知った。


 次に私は何を知るのだろう。

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