Ghost night parade

神主 水

働かざるもの地獄行き!!

「お.....てく....い」

暗闇の中から引き摺り出すように脳に響いてはまたその単語の意味を持たずに深淵に落ちる。それが何度も何度も繰り返されていくうちに、初めて単語のつながりのようになっていく。どうやらこの声主は俺に起きろと言っているらしい。また飲みつぶれて寝ててしまったのか。そんなことを考えながら、気怠く瞼と体を上げる。

目を開けると、眩しさがフラッシュバックのように広がりやがて落ち着く。

しかし、目に入った光景はいつも行ってる居酒屋のこもった空気とカウンター先にある酒瓶の羅列ではなかった。

真っ白いシミひとつない天井だ。そして視界が開けると同時に、俺の感覚もクリアになっていく。どうやら、ふわふわの何かの上にいる。何だろうか雲の上にでも乗っているのか?そしてなぜか、すごく心地が良い。空調とこの静寂が生み出すハーモニーまさに天国。

「やっと起きた!」

シワのない、赤ん坊のような艶の美貌が視界に入る。小さく縦にシュッとした鼻。おっとりした目。やはり、天国かここは。

「ここ....は?」

とりあえずここが天国なのかそれとも、現実という地獄の延長線なのか聞いてみることにした。寝起きでまだ滑舌が生命活動についてきてない。

「えっ?天国ですよ!ここ。」

「....んえっ!?」

声が裏返って情けない声が出てしまう。

あぁ、まずいまずい少々レディの前で取り乱してしまった。失敬失敬。しかし、悪ふざけにも程がある。ここは少し正してやらねば。紳士的に。そしてひとつ哲学でも語るような顔で、

「はははっ、冗談はよしてくださいよ。僕はまだ24歳バリバリのサラリーマンなんですから。じゃあ、死因とやらは何でしょうか?女性に囲まれたことによる窒息死でしょうか?」

完璧に決まった。吐息混じりの子の声に魅了されないものはない。(試行回数0回)

「えー、アルコール過剰摂取による信号無視。および車との衝突による事故死。

まさか記憶がないのですか?」

ちょっと何言ってるかわからない。そんな淡々と言われてもわからんわ。

「全くないです。すいません。」

この気迫と無心さについ気圧されて誤って謝ってしまった。いやだって、俺ここにいるじゃん生きてるじゃん。わからん。どういうことなんだ。

「承知しました。ではご覧ください。」

そして俺はVRゴーグルのようなものを渡され装着する。

するとどこか見覚えのある居酒屋が見え、一人の男がフラフラになって出てきた。何だこのパッとしないシワだらけのシャツに頭にネクタイをつけた奴は。恥ずかしいったらありゃしない。

どうせ酒で世間から逃げようとしてる軟弱者.....

「これが死去当日のあなたです。あなたはこのあと4つの信号無視を繰り返し挙げ句の果てに、トラックとの衝突で亡くなります。覚えはありませんか?」

「あっ....」

それから先のことは何も覚えていない。新しく入ってくるであろう記憶はフラッシュバックに飲み込まれて、鮮明に過去を照らすものとなった。時が進めば進むほど過去は鮮明にその姿を帯びるのである。.....言ってる場合か!!!

えっ?なに?俺ほんとに死んじゃったの!?一気に頭痛が俺を襲って、体の力が抜けていく。俺の目は何に焦点を掴むわけでもなくただぼんやりと、しかし鮮明に過去を孕んでいた。


それから俺は現実を受け入れることにした。いや、待て待てそうだここは天国なのだ。受け入れるなんて固くすることじゃないだろう。だって天国だぞ?極楽浄土と聞いただけで心拍が小刻みになる。一体何があるんだ?

「お立ちください」

俺は聖女に導かれこの白璧に囲まれた部屋を後にした。ドアは手動の二つ扉になっており、そこを押し開くと、全く雰囲気の違う部屋が広がっていた。教会のように真ん中に一線の道が通り、両サイドには規律的な並べ方をされた長椅子が並んでいる。そして前方には教壇のようなものがあり、その上には七色に貼られたガラスがある。ひとつ一つの色がそれぞれを嫌い会い、自分が一番美しいと主張してるようだ。光源はそれだけで、色とりどりの光の線は床に個性を持った水たまりのように広がっている。

そして前方には天国に似つかないおじいちゃんがいた。白い服に身を纏ったテレビにで見た教皇のような格好をしている。顔には年季の入った線がいくつも入っていた。口の横、おでこ、目元。

何だこのおっさんは、俺の天国に場違いだ。どうして俺の天国にこんなおじいがいるんだ。無意識のうちに俺は爺を睨みつけていた。

「何だ、その目は」

爺が言う。その声は地震が起きたのかと思うくらい低く俺の鼓膜に響いた。つい恐縮してしまう自分がいる。それは上司の怒号以上の響きを持つような気がした。

これが俺の天国ならば、俺はこんなジジイに叱られることが天国だと思うマゾヒストだったのかそれともおじフェチだったのか.....どちらにせよ現実がまた遠く霞んで手の届かないところに消えていく気がした。

そして爺は溜め息を吐き、手に持っていた辞書のようなものを広げた。

「まぁよい、これからお主の天国が地獄かの判断をする。」

「.....?えっ?ここ天国じゃないの?」

また素っ頓狂な声が出てしまった。

「ん?.....また説明してないのか!ジュリアン!聖女としての役割を果たせ!

地獄行きにするぞ!」

モーセの海割りならぬ風割りのような怒濤の声がこの中にぐわんぐわんと何度も反射して繰り返される。

「ひぃー!!すいません!今説明しますので」

彼女は教皇もどき爺にペコペコと頭を何度も下げてすぐにこちらに向かく。混乱からか目がぐるぐると回り焦点を探し、言葉の糸口を探そうと口をぱくぱくさせている。

「えっと、まずここは、天国なんですけど、亡くなった方々は皆それぞれの個室に魂だけが移転され、現世での火葬され次第実体がこちらに来ますので、あなたは今実体です。痛みも記憶も感情も、そのままです。あと、今からあなたの徳と性格、人間関係を図り地獄行き、または天国。どちらかをこの、シューベルさんに決めてもらいます。」

徳と性格?地獄行き?えっ?俺って大した徳もしてないしこんな性格だし、どう考えても終わったとしか言いようがない。しかも人間関係なんて、最後に話したのは、母親に「働け!!」の二言。いや話したかどうかも怪しい。しかも痛み?感情?実体?

....?それって天国じゃなくないか?だって痛みも、感情もあんの、それってはたして天国なのか?いや待て待て、それ自体が俺の勘違いなのかもしれない。死ぬことがゴールなんじゃなくて、死ぬことで第二の人生が始まる.....

おい、じゃあ俺のハーレムはどうなんだよ!!何も変わんねぇじゃねぇか!!

輪廻転生ってレベルじゃねぇぞ!!

「では、始めるぞ。ゔぅん!死者 葛城 真斗(かつらぎ まさと)!!合計で200点を取らなければ貴方は地獄行きにする。まず、徳から測る。酒を飲み4度の信号無視、その果てに完全に貴方に非がある交通事故。

及び働かないことによる親孝行不足.......」

そこから長々たらしく、自分の過去に触れられた。どうやら本当にここは天国らしい。俺以外絶対知らないような(申し訳程度の万引き、子供の頃電車の中でいやらしい目線で見てた、女の人。嫌いだった給食の食品を学校の裏に埋めてたこと、などなど)明らかなマイナスだ。それから人間関係や、性格などは、これらを補うことなどできるわけもなく。

「それでは判決の時だ。葛城 真斗!!合計ポイント17点!!地獄行きとする!」

終わった.....17点?俺の人生が?いや.....17点?嘘.....ではないか、確かに、そうだ。浮かれていた自分を恨む。膝の力が抜け、体の中の感覚が消えた感じだ。

そして、大きすぎる何かが覆い被さっているような気がする。

「と、言いたいところではあるが.....あの方の推薦だ。地獄行きは取り消す。つまり天国行きだ。全く、推薦で天国に行けるなど言語道断だ。けしからん。しかし....」

そういって下を向いて黙りこくってしまった。

......えっ、まじ?天国行き.....何かの間違いではないのか?てか、推薦式採用されてたんだ。しかもあの方とは?いや待てよ、その人は俺がここに来ることを知っていたのか?それともまだ俺が起きていない時にここに来てそういったのか。どちらにせよ.....天国行きだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!

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