ノンシュガー・ノンビター

なゆお

ノンシュガー・ノンビター

今日の夜は、何だか違った。


自分の心の奥からそう感じる。

だが、月は満月でなければ、今日は特別な日ではない。何かあった訳でもない。明日にも、1週間の予定も仕事か休みしかない。


タバコはいつものだし、コーヒーもいつものだ。


なのに、なぜか、『違う』


そう感じる。


根拠のないそんな勘が自分を襲う。


タバコを吸う。

冷静になろうとして、冷静になろうと考えれば考える程、その冷静さが無くなっていく気がした。

次にはその思考さえも煙と一緒に吐くことにした。


夜空を見上げると、何も無い。目の前を見据えると、東京のライトが光り輝いていた。


風が吹く。タバコの煙が光の方へと行く。だが、光にたどり着くことなんて出来るはずもなく、消えていく。


ついこの前まで、この煙のように消えてしまえれば。なんて考えていた。


だが、それはただの逃げ。痛みや苦しみから逃れて死のうなんて、逃げ虫のようだ。


虫を見ながら、そう思う。


また風が吹く。風に飛ばされるように、虫は逃げていった。


寒いな…。


寝巻き、そろそろ暖かいのにしてもいいかもな。


とりあえず、部屋に戻るか。


そうして帰ろうと、振り返った時、を見た。


「…ぁ」


声にならない声。

驚きを隠せない自分の目は、何もかもがどうでもよくなった。


なぜなら、夜空に無数の流れ星がキラキラとり輝いて落ちていたからだ。


綺麗だ。スマホがあったなら撮るだろうな。と思いながらも、実行までにはいかない。目が、離せないのだ。


やがてそれ達が過ぎ去った後、残るのは現実の独特感と、非日常のふわふわとした感触。


――もし。

もし、あんな光景がもう一度見れるのであれば、命さえも差し出そう。


そう思えるくらい綺麗な光景だったし、色んな事を感じる出来事だった。


人生はコーヒーのようだ思っていた。


砂糖が入ってないのに、苦くない。


苦い訳でもない。苦くない訳でもない。

最初は苦いけど、慣れてしまえば苦くない。

たまに癖のある苦いや風味に出会うが、それもいいと思える。


でも、さっきのあれは、完全に違った。

まるで未知との遭遇。

例えば、コーヒーと紅茶のような。

種類すら違う。


あれは、ミルクも砂糖も入ってた。

そんな夢だらけの紅茶。


飲んだら後に戻れない。

依存してしまう。


けれど、自分は一度飲めただけいいと、そう思える。


そして自分の部屋に戻り眠りにつく。

しばらくは眠れそうにはならないけど、仕方ないだろう。

誰しも、あんなものに出会ってしまったら、寝れやしない。


けれど、明日も仕事なので寝なくてはならない。

そして眠くなり、気を失う前に1つ願う。


また次も飲めるようにと。



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