インドネシアから来た知多さんは、今日も考える
どうたぬき
第1話 仁は何を守る
—
岡崎
仁とは、何だ。
守る価値があるものか。
俺
価値じゃない。
壊れないための仕組みだ。
知多
ヘー。
仕組み、ですか。
ちょっと機械みたい。
岡崎
人の話だろう。
俺
人だからだ。
論語の仁は、感情でも理想でもない。
人が人のまま動くための、最低条件だ。
知多
オー。
最低条件、厳しいですね。
俺
厳しいが、現実的だ。
孔子は善人を作ろうとしていない。
崩れにくい人間を、残そうとした。
岡崎
どういう状態だ。
俺
簡単に言えば、
「余裕がなくても、雑にならない」。
知多
ヤー。
それ、現場いちばん難しい。
俺
分かっている。
だから仁は、立派な話に見える。
● 仁を日常語に直すと
→ 相手を「作業」にしない
→ できるのに、切らない
→ 自分の楽だけで、決めない
俺
全部、目立たない。
岡崎
強さではないな。
俺
違う。
強さを使う前の、姿勢だ。
知多
ヘー。
優しさとも違う?
俺
違う。
優しさは感情だ。
仁は、判断の癖だ。
岡崎
癖なら、鍛えられるか。
俺
鍛えられるが、教えられない。
論語が分かりにくい理由だ。
知多
オー。
マニュアル、ないですね。
俺
ない。
仁は「こうしろ」じゃない。
「ここは越えるな」という線だけ引く。
岡崎
越えたら、どうなる。
俺
人は早い。
相手を、物として扱い始める。
知多
それ、ちょっと怖い。
俺
だから仁は、守りだ。
他人のためじゃない。
自分が、人である側に留まるためだ。
岡崎
損をする選択も、含むな。
俺
含む。
だが孔子は、称賛しない。
英雄を作る気が、ない。
知多
ヤー。
英雄いない世界、静か。
俺
静かでいい。
論語は、喝采を想定していない。
岡崎
それでも、なぜ続いた。
俺
続いたのは、
役に立ったからだ。
知多
役に立つ?
お金、増えますか。
俺
増えない。
だが、夜に自分を殴らずに済む。
岡崎
それは、強い。
俺
そうだ。
仁は弱さじゃない。
自分を裏切らないための、強度だ。
知多
……オー。
じゃあ私、仁あるか分からないけど、
今日は、雑にしなかった。
俺
それで十分だ。
次の更新予定
2025年12月28日 20:00
インドネシアから来た知多さんは、今日も考える どうたぬき @doutanuki88
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