「みんな頑張ってる」が言えなかった

@thund_lightning

「みんな頑張ってる」が言えなかった

「年収が高い人はそれほど頑張っているわけだからねぇ」

「いや、それは…」


友達が言った何気ない一言に、つい反射で否定せねばと言葉を出そうとした。でも続く言葉が出てこない。最近人の話を何かと否定したがる押釦がまた否定するつもりだぞ、とそんな空気が流れているような気がして、「いや、なんでもない…」とその場を流してしまった。


大学の頃の友達とオンラインの麻雀をしていた。真剣に順位を競うとかではなく、雑談ついでにやるものだ。そのとき、キーエンスという会社の年収が高いという話題になり、友達の一人がそんなことを言って何も返せない自分がいた。

そういう日はもうなにもかもうまくいかない。麻雀は全くツキがこないし、酔っぱらっている風な別の友人がいつもより強く自分をイジる。自分は自分でモンエナを飲んでしまってカフェインとりまくり交感神経ドパドパ状態で、調子がおかしくなっていた。心臓のドキドキが止まらないから何とかを深呼吸して落ち着かせようとするが、まったく落ち着くことができない。かるく今日は調子が出ないことを話してみるが、「お前はいつもそう言ってるだろ」と一蹴される。結局、その日は収支マイナス、感情マイナスで切り上げることになった。


ここまで麻雀で負けた点数をぼんやり眺めながら、あのときなんて言葉を言えばよかったかを考えていた。

「頑張っている人は年収が高い」「努力すれば報われる」と同じような響きの命題だ。「努力すれば報われる」は対偶を使えば「報われない人は努力していない」という文になり、その命題の暴力性があらわになる。「年収が低い人は頑張っていない」これもめちゃくちゃ暴論だが、命題が真なら対偶もまた真である。だから「頑張っている人は年収が高い」という前提は疑わなければならない…

いやいや、友達もそういう意味で言った訳じゃないはずだ。「年収が高い人はおそらくそれに見合うほどの努力をして報酬を得ている。」そんなニュアンスだとしたら理解できる。年収を上げるために仕事で結果を出そうとするのは至極当然なことである。それを否定するのはおかしいだろうと。

それでも。自分が転職したときの一件で個人の能力と報酬が一致するわけではないことを身に染みて分かっていた。確実に社会的価値を生み出しているエッセンシャルワーカーが収入が低く、必ずそうとも限らない「ブルシットジョブ(働く人自身でさえその存在を正当化できないほど無意味で不必要な仕事)」をする人の方がかえって収入をもらっている現実が存在する。(自分もどちらかといえば後者側の人間である。)


「みんな頑張っているんだよ。年収が高い人も低い人も、もらっていない人も。」

そんな言葉が頭に浮かんだ。

別にそういったことを示しているデータがあるわけではない。自分が読んだ本から学んだ知識が積み重なっていった結果、そういう結論になっていたというだけだ。

でも、多分否定されてたんじゃないか。

「そんなことは当たり前だ、みんな頑張っているのは当然で、それよりさらに頑張れる人がより報酬をもらえるんだ。」

自分の心の中に住む別の自分が、実際の友達より意地の悪い顔でそんなことを言っていた。別の自分に言い負かされてしまう自分にあまりにも情けなくなってしまって、わっと涙があふれた。


あまりにもしんどくなったので、麻雀をしているLINEで、

「本当にしんどいから当分麻雀はみてるだけにするかも」とぶちまけた。

続けて、「自分は休職する前の自分と変わってしまった」という内容の文章を書いた。そのあまりな赤裸々さに友達も答えるのに困っただろうなと思う。(自分でも考えてみたがいい答えが見つからない。)

大学のサークルで変なことばっかりし続けて、周りを笑わせたり困らせていたあの頃の自分はもういない。いや表面上そう振舞ってしまうのをやめられない自分はまだいる。だけど、一皮むけば仕事・婚活にめっきり打ちのめされてひどく小さく縮こまった自分が震えている。そんな自分は以前は傷つくことのなかったイジりにひどく傷つくようになってしまった。

そういうことが言いたかった。


次の日、酔っぱらって自分を強くイジった友達に直接ラインし、そういうつもりでいったわけではないと言ってもらえた。

そのまた次の日、心配してくれた別の友達が駆けつけてくれて、自分が抱えていたことをいっぱい話した。辛いことも楽しいことも友達に話せばスッキリする。

思えば、「自分が変わってしまった」とぶちまけられるのも相手を信頼できるだけの関係があったからだ。そういうことが伝えられる友達はほんの一握りしかいない。


この前はすまなかった。

5人だと一人抜けたら麻雀できないだろうから、また誘ってね。

今度は負けても文句言わないから。

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