第10話






 それにしても、誰が私をここへ運んでくれたんだろう?



 倒れる前、王子様みたいにかっこいい人が現れて、自分を守ってくれてたような…?



 あの人は誰だったんだろう?



 あれは本当に夢だったのかな?



 だって今、あの人はここにいない。



 あの王子様との出来事は、やはり夢だったと思った方がしっくりくる程、すっかり馴染んだベッドシーツの肌触りが現実的で、理央は少し寂しくなった。 



「なぁに?その顔は。笑ったと思ったら、急にそんな顔して。ねぇ、本当に何があったの?」



 咲は、落ち着きを取り戻したようだ。



 ベッド脇に置かれていた丸椅子に腰掛けると、理央の横顔と向き合う。



「誰かに、何か言われた?」



「ん…」



 本当は裕太の事を話すのは気が重かった。


 

 けれど、昔からずっと、自分の病気を気にかけてくれる親友を前に、事実を話さないでいる事は、理央には出来なかった。




 3分後___




「なっ…!なっ…!なんっ…!なんなのっ、それぇっ………!!」



 裕太の浮気話を聞いた直後、咲は真っ赤な顔をして丸椅子から飛び上がった。



 口から火を吹くような勢いで「裕太!あいつ、マジでぶっ殺してやっから!!」と、握りこぶしを両手で作り、保健室から飛び出して行こうとする。



 昔から、咲の血の気の多さを知っている理央は、その背中を必死に掴んで引き止めた。



「さ、咲ちゃん!お願いだから落ち着いて?私もう、大丈夫だから」



「なにが大丈夫なの!?ちっとも大丈夫じゃないじゃない!現にこうして、理央が倒れてるのに!!」



 理央にも噛み付くような勢いで、咲は声を荒げた。






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