第8話


 


 裕太は理央から顔を反らし、罰が悪そうに口を開いた。



「俺は…理央の事は最初から何とも思ってない。さっきの言葉通り、俺は理央の事をからかって遊んでただけで……」



「本当に、君を今すぐに呪い殺してやりたいくらいだ…」と、完璧な笑顔を浮かべて、瀬戸先輩は恐ろしい事を口にする。




「じゃあ、これからは指一本、理央に触れないと約束して。理央は、俺がもらうから」




 えっ___



 その場にいた、瀬戸先輩以外の三人が驚きに絶句する。



「せ、瀬戸先輩!何でっ?その子が好きなの!?」



 真っ先に口を開いたのは遥だった。



 酷く動揺し、目にはうっすらと涙を浮かべている。




 俺が、もらう?


 もらうって?


 一体、何を言ってるの?



 理央の頭の中も、パンク寸前だった。


 

 裕太と遥に罵られてから、ずっと頭の中がボヤボヤとして気持ちが悪いのに、ここに来て何度、頭を悩ませればいいのか…。



 瀬戸先輩は、当たり前とでも言いたげに、先ほどから笑顔を崩さなかった。



「本当は俺はずっと、理央が彼氏と別れるのを待ってたんだよ」



「せ、先輩…、嘘でしょう…?」と、遥が絶望したように呟く。



 その膝は崩れそうなくらいガクガクと震え始めていた。



 もしかしたら遥は、瀬戸先輩に本気の恋をしているんじゃないか?と、理央は靄がかかり始めた頭で考えていたが、次の瞬間、理央の意識は、自分の顔を覗き込んでくる先輩へと飛ばされていた。



 それは、愛しい恋人に向けるような、ただひたすらに優しい天使のような微笑み___




「理央、俺は、理央が好きだよ……」




 幼い頃、童話の中に出てくる王子様は、必ずお姫様に愛を伝える。



 すごく憧れを抱いていたけど、幼いながらに、これは作り話だから、現実にはあり得ないと思っていたっけ?



 だったらこれも、都合のいい夢なのかな……。




 あぁ___もう、限界___



 さっきからずっと、目の前がクラクラと揺れて、酷い耳鳴りと頭痛がして____




 立って……られな……い………。





 地に足を付けるのもずっと限界だった理央は、ついに極度の目眩から、瀬戸先輩の腕の中で意識を手放してしまった____








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