第7話




 初対面の人相手に、どうしてこんなに胸が高鳴るのか、理央には分からなかった。



「申し訳ないけど、さっきの会話、聞かせてもらったよ」と、瀬戸先輩と呼ばれた彼は、ようやく理央から目の前にいる二人へと顔を向けた。



「理央に酷いことを言うのは許さない」



 強く冷徹に響く声音。



 それは、この場の空気を痺れさせるように威圧的で、理央は彼の腕の中で無意識に身体を固くしていた。



「理央を騙して、もてあそんだ事も、いくら理央の幼なじみでも俺が許さない」

 


 裕太が「うっ…」と怯むのが、理央にも伝わる。



 この後の裕太の態度次第では、この場で殴りかかることも厭わないくらい、瀬戸先輩からは猛烈な怒りが滲み出ているからだ。



 裕太は身長が高い方だが、瀬戸先輩はそんな裕太よりも背が高く、引き締まったしなやかな体躯をしていた。



 そんな先輩に見おろされ、鋭く睨まれていては裕太は頭を下げて「…悪かった」と、謝罪をするしかなかった。



「……謝られても、俺の怒りが消えたわけじゃないけど」と、瀬戸先輩は腑に落ちないように呟く。



 先輩は先ほどから、どうして私を庇ってくれるのだろう?と、理央は不思議だった。


 

 理央を守ろうとする瀬戸先輩の態度や行動は、ただの同情や親切心からきているものとはどうしても思えない。



 その時、理央が抱いた事と同じ疑問を、遥が口にした。



「先輩…どうしてですか?どうして、そんなに桜井さんを庇うの?」



 でも、瀬戸先輩はその質問には答えずに、真剣な表情のまま、裕太へと視線を向けた。



「単刀直入に聞くけど、君は、理央の事どうするつもり?二人は、付き合ってるって聞いたんだけど…?」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る