私の通ってる女子校はデカすぎる!
藤田大腸
藤葉女学園
私の通っている女子校はデカすぎる。
兵庫県南西部の地方都市、
校風は他所に比べると比較的自由だ。それでも敷地内を自転車に乗って移動するのは禁止されている。何度も要望が出されているものの、その都度生徒会が安全性を理由に跳ね返してきた。なんて頭の固い連中なんだと生徒たちは一様に不満を抱いている。
私も生徒会の一員として物申したいけど、悲しいかな、下っ端雑用係では何も言えない。
北東エリアにある高等部専門科校舎群にやってきた。高等部は普通科の他に体育科、国際科、商業科、芸術科、福祉科があり、それぞれの五つの校舎が五角形状に配置されている。私は体育科校舎に立ち入った。中学時代に各運動部で実績を出し推薦入学を勝ち取ったフィジカルエリートたちの巣窟だが、校舎内にはすでに部活を引退した三年生を除いてほとんど生徒の姿を見かけない。用事があるのは職員室の方だ。
「矢島先生? バレー部に顔出してるよ」
マジかー……聞いた話だと今の時間帯はコーチに任せて職員室で仕事してるはずだったのに。ここまで短くない距離を走ってきたのに……やっぱり自転車移動を認めるべきだ。
心の中で愚痴を吐きつつ、私は北門から出ていった。県道を挟んだ向かい側に藤葉スポーツセンター――運動部の施設群がある。硬式野球部とソフトボール部のグラウンド、サッカー部グラウンド、陸上トラック、馬術部の馬場、武道場、二つの屋内練習場……などなど。もはや運動公園と言っても差し支えない規模である。守衛さんに生徒手帳を見せて入場して、第一屋内運動場に向かった。ここがバレー部の練習場だ。
中に入ると、ちょっと怖そうな顔の先輩に「誰?」声をかけられた。
「あの、バレー部の矢島先生に落とし物を届けに来たんですけど」
「やじまん? 今トレーニングルームにいるよ」
トレーニングルームは二階にあるそうで、たらい回しにげんなりしながらも階段を登り、今度こそはと願いつつ入室した。比較的優しそうな先輩がいたので、今度はこっちから声をかけた。
「すみません、矢島先生はいますか?」
「あっちのケーブルマシンのとこ」
そっけなく返されたが、矢島先生をようやく見つけた。
なぜか先生本人が鍛えていた。ケーブルがおもりらしきものに繋がっていて、先生が電車の吊り革っぽいものを引っぱったり戻したりしておもりを上げ下げするたびに上腕二頭筋の太さが強調される。いかにも体育会系といった感じの、ケツアゴでムキムキマッチョのおじさんだ。
「あ、あの忙しいところすみません。私生徒会のものですけど」
「ん、生徒会? どうした?」
矢島先生はトレーニングを中断して私に振り向いた。
「落とし物を届けに来ました」
矢島先生の名前が書かれているノート。可愛らしい丸文字なので私は最初女性教師だと思い込んでいたが、こんなごつい男の先生だとは思っていなかった。
「おお~、探してたんだよこれ! ありがとうな!」
矢島先生はノートを受け取ると自分のバッグに押し込んで、代わりに財布を出して百円玉を二枚取り出し、私に差し出した。
「わざわざご苦労さん。これでアイスでも買いな」
「いえ、そんな」
「素直に受け取っとくもんだぞ」
私の手の中に百円玉が押し込まれた。この体育会系チックな強引さはちょっと苦手だ……。
とにかく、用事を終えた私はまた来た道を戻ることにした。
巨大な学園の中心地にそびえ立つ中央棟。通称ウィステリアタワー。立方体の上に円柱形が乗っかった造りをしていて、そこの三階に生徒会の執務室がある。エレベーターがあるけれど、私のような雑用係は階段を登っていかなければならない。段数が多いからこれがまたしんどいのだ。
雑用係というものはしんどくてナンボという、とある生徒会役員のありがたいお言葉が身にしみる。
「ただいま戻りました~……」
息を切らした状態で重厚感のある両開きの扉を開けて入ると、「ご苦労さま」とねぎらいの言葉が。
声の主は生徒会副会長、
「早かったわね」
「そりゃもう、仕事は速さが命ですから」
ランナーズハイというのか、何かテンションが上がっていて変なことを口走ってしまった。
「そう。じゃあ戻ったばかりで申し訳ないけど、今度はボランティア部まで行ってきて。この前出してきた書類に不備が見つかったの」
ボランティア部の部室は確か……福祉科校舎だ。さっき行ったばかりの高等部専門科校舎群まで戻る必要がある。
「提出期限は明日までだけど、今日その場で直させなさい」
「わ……わかりました、行ってきまーす!」
元気な声で返事をして。心の中ではヒイヒイ言いながら。二回目のお使いに向かう。その前にほんのちょっとだけサボることに決めた。
タワーの一階には校内ストアがあり、そこでモナカアイスを買った。矢島先生のお金を使って。
このモナカアイスは私の大好物だけど、実は私の学校生活を変えるきっかけにもなってしまった代物でもある。そのときのことを私はぼんやりと思い出していた。
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