エメラルドの瞳が見る色

凛レイクウッド

完璧に見える彼がこぼした、不自由で優しいお願い

「お先にお飲み物お伺いしましょうか?」


「レモンサワーで」


「生ビールで」


「かしこまりました。追加注文はそちらのタブレット端末からお願いします」


私ビールおいしくなくて飲めないんだよね。

マーティンは辛いお酒好きなのカッコイイなぁ。


マーティンは大学の同級生でノルウェーからの留学生。こんな日本語も上手くて金髪の純北欧系イケメンを自分からデートに誘った、私すごい!!


まだ付き合ってる訳じゃないのがいいんだよね、告白しないでデートできるって外国人に限っちゃう。


「とりあえず食べたいの頼んだ、彩乃あやのちゃんも好きなどうぞ」


「ありがとう、マーティン」


私にタブレット端末を渡された時マーティンの手に触れた。何っこんな真冬なのに手がホカホカしてる。性格にも暖かみがあるもんなぁ。なんかわかるけど冷え性じゃないのがうらやましい。


「お飲み物お持ちしました。火をお点けしますね。ここのボタンで火力調整ができます」


「とりあえず、カンパーイ」


乾杯後レモンサワーを一口飲んだ。

ご飯ないとアルコール飲みづらいんだよね。

焼肉って頼んだらすぐに提供されるからもうすぐ肉もくるはず。

あーお腹空いたから早く食べたい。


マーティンから衝撃なことを聞いた。


「嫌でなければ僕の分も焼いて欲しい。僕は色覚に障害があって焼肉の色が焼けてるのか殆どわからなくて」


な、なんだって。私が全部焼いていいのか?

自分ができないことを素直にオープンにし人に頼ることを厭わない男性。これは私がずっと求めてた理想の相手。


「わかった。全部私が焼くね」


「ありがとう。そっちも食べたいときは食べてね。できるだけゆっくり食べるから」


静かに微笑む優しさ、エメラルドの瞳が一層輝いてみえる。

なんかマーティンが可愛い過ぎてニヤニヤしてる私気持ち悪いな。


まずはカルビ焼けた。一枚自分で一枚マーティンの皿に移した。


美味しそうに食べるマーティンの姿は美味しい焼肉より美味しい。


「海外には自分で焼くスタイルの焼肉屋って珍しいんだよね」


「そうだね。僕は日本以外で見たことない」


「自分で焼けないとかマーティンにとって日本の焼肉屋鬼畜だったりしそう」


「そんなことないかな。お肉大好きだし。ありがたいことに皆優しいから焼いてくれるんだよね」


「他に困ったりしたことない?」


「あんまりないかな。視力は問題ないし。色が不自由ってだけで。

でも服はいつもオスカーに選んでもらってる。よく考えたらすごく恵まれてたなぁ」


確かにめっちゃおしゃれだもんな。

ベージュのダッフルコートに臙脂のチェック柄マフラー。その下に着てる白いカットソーはすごくセンス良い。それなのに色が不自由とか最初信じられなかった。やっぱり愛されてるんだろうね。


「はい、たくさん食べてね」


「嬉しいなぁ。彩乃ちゃんも好きなだけ食べてね」


「マーティンは人参食べれる?」


肉の付け合わせの人参くらい最悪残しても悪くはないと思うけどできるなら全部食べたいんだよね。


「うん、食べるよ。苦手なのあったら全部僕のところに入れて」


「マジで、嫌いなものないの?」


「あんまりないかなー。納豆くらいかな苦手なの」


納豆はまあしかたない。日本人の私ですら苦手だもん。それにしてもこの見た目と性格で好き嫌いが殆どないとかもう清純過ぎてこころやられるんだけど。



あー飲み過ぎて顔真っ赤だ。二杯が限界かも。マーティンはビール三杯目。お酒強くていいなぁ。人種的に当たり前とは言え酔いにくいのうらやましい。


マーティンはお酒だけじゃなくてすごく食べるんだよね。今までの知り合いでこんなに量食べる人って太ってたり下品な食べ方する人多かったけどマーティンはそれもない。丁寧なのに食べっぷり。あとすごくスリムなのに大食いとかきっと代謝が良くて健康なんだろうな。手が暖かいのもきっとそのせい。



お会計はマーティンがしてくれた。半額分の現金渡すが

「全部焼いてくれたから出すよ」って言ってくれた。

これは自分の優位性関係ない心からの感謝だ。

奢りたがる男は大嫌いなんだけど、マーティンのような男性から奢ってもらうことは嬉しい。

と言うか謙虚だよね、マーティン。私がもし奢りを拒否したならそれに応じてくれたに違いない。



酔っぱらいながら外に出ると、思わずヒールのブーツを履いてて寒いから震えたせいでがたっと転けそうになった。


「よっ大丈夫」


「マーティン、ありがとう」


転けそうになった私の身体を支えてくれたとき、服の上からでもわかる手の熱。

改めて立って見るとマーティンスタイル良いなー。160センチオーバーの私がヒールを履いてもそこから更に10センチ以上高い。おそらく180センチ超えの身長で腰の位置も高く、引き締まった細身。

見た目も性格も美しい過ぎんかい。

こんな完璧な男性に彼女いないとか考えられない。


「今日は誘ってくれてありがとう」


「こちらこそ」


解散してから私は思う。マーティンってさっきも倒れそうになったところをエスコートしてくれたけど、過剰なエスコート欲がないんだよね。例えば私が一人で帰ろうとしたら夜だから送って行くよとか言って断っても断らせてくれないやつ。こんな男は大嫌いだ。



それから私は家に帰ってもずっと彼が頭から離れない。

果たしてこんな人とまたデートするべきなんだろうか。

好きか嫌いかと言えばこの上ないほど大好き。

けど現実の交際にそんな理想を持ち出していいことあるのだろうか。

てか本当にマーティンは今彼女いないんだろうか。

もしいるなら私は身を引きたい。

卑屈になる積もりはないけど恋愛で戦うのは私の信念としてダサいことなんだよね。

泥沼の中で女責めるとか私としてはありえない。


あー今日は眠れないだろうな。




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